第一章
暑い.....それしか頭に思い浮かばなかった。
暑いといってもこの国ではまだ4月、他の世界で言えば涼しい季節なのかもしれない。
だけど、この世界の神代市の神代学園に通う仙波大和からするとこの季節に涼しいなんてことは、常識の中にない。
「ここまで暑いとさすがに嫌いになりそうだよこの国」
大和は学園が終わりとある人と待ち合わせのために町にあるショッピングモールに向かっていた。
「まったく学園から一緒にいけばいいのに
なんでこんな炎天下の中一人で歩き続けないけないんだ」
大和はぼそぼそと小声で愚痴を漏らす。
待ち合わせの人物は一緒の学園の人物だ。
大和は一緒に行けばいいのにと何度も言ったが、その本人いわく今日はこだわりたいことがあるらしい。
「春だよ...この国にも春が欲しい」
そう思うには簡単な理由があった。
この神代市、いやこの国自体に春と秋がないからだ。
それが何故なのか?いつからかなのか?そんなことは頭の悪い大和には分からなかったが、昔両親に連れられて海外に行き初めて春の心地よい風・気温をあじわったときには感動すら覚えたほどだった。
「ようやく見えてきた.....」
20分ほど歩くと建物の間から目的地であるショッピングモールが見えてくる。
そこはネメシアと呼ばれるショッピングモールは大和が子供の頃から利用していて馴染みのある場所だった。
「やっとついたよ‥
優花はまだ来てないのか、自分から呼んでおいて」
待ち合わせしていたのは幼馴染みでもあり彼女でもある春野優花だ。
一応連絡がきていないか携帯機器を見たが連絡の履歴などは残っていなかった。
「待ち合わせ場所間違えてないよな」
もう一度携帯機器を起動しメールの欄を見直すが、待ち合わせ場所は今大和がいる電光掲示板前で間違いなかった。
しかし、それから30分待っても優花は来ない。
いくら彼女とはいえど大和はイライラしはじめてきていた。
「おーーーい」
大和の耳に小さくだが聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「........」
大和はあえて無視する
「無視しないでよぉ!」
「........」
「待ったー?」
優花はなにも悪びれる様子もない満面の笑みで問いかけてくる。
「体感3時間くらい待ったよ!
自分から呼んどいて何してやがった」
少し勢いをつけて驚かせるように言う。
「そこは待ってないよって言うのが彼氏の勤めでしょー
女心が分かってないなぁ!
今日は待ち合わせのシチュエーションがよかったの!」
「そんなものは知らん
付き合い長いのに今さら王道なデート展開されても困る」
大和がそっぽを向く
「悪かったてばー
機嫌治してよ、ちゃんと理由があるんだから!」
優花が大和の正面にまわって力強い視線で見つめてくる。
「わかったよ
理由があるなら聞こうじゃないか」
「私に更に惚れても知らないから!」
そういうと優花はバッグの中にてを突っ込み中を漁り始める。
少し漁ると目的の物があったようでそれを取りだし大和に見せそれを渡してくる。
「はい!誕生日プレゼント!
中身は大和の欲しがってた時計だよ!」
「あ....ありがと」
大和は自分の誕生日だということを忘れていた。
でも優花がそれを覚えててくれて、自分のためにプレゼントを送ってくれたことに対してとても嬉しく感じて凄く優花が可愛く見えた。
彼氏とは彼女に対して少なからずとも、ちょっとの事でも凄く可愛く見えるそんな補正が入るものだ。
「なにそんな見つめてきて、もしかして本当に惚れ惚れしちゃった?」
「うるせーっての!」
優花がにやにやしながら聞いてくるが、大和は照れ隠しすることしかできない。
こうゆう所で女は一歩上手だ。
「あ、明日は私の誕生日だからね!
プレゼント期待しちゃうよ~」
「分かってるって、もう用意してあるよ」
自分の誕生日は忘れていた大和だが、優花の誕生日はしっかり覚えていて既にプレゼントは家に用意してあった。
今年のプレゼントは少し学生には高かったが恋人らしいペアルックのネックレスにした。
我ながらに中々のセンスだと自負している。
「なになに~どんなのくれるの~?」
優花がニタニタしながら聞いてくる
「俺はサプライズが好きだからな!
明日の放課後まで楽しみに待っててくれ」
大和もにやけながら優花に言う。
それから二人はショッピングといっても、金銭的な面でほぼウィンドウショッピングなのだがネメシアの中を歩いていた。
大和はただ話ながら歩いているだけで楽しかったし特別なことはなにもいらなかった。
それからしばらく話をしていくなかで明日の学校行事のスポーツ大会の話になった。
「大和は明日のスポーツ大会今年は出るの?」
「いや俺は例年通りサボるよ
安心しろプレゼントは届けてやる!」
「そういうこと言いたいんじゃないんだけどね....」
優花が苦笑いする
決して大和は運動が嫌いな訳じゃなかった
むしろ好きな方だ
参加しないのには仙波家の家庭事情というか大和の体に問題があった。
「悪いな優花、俺は極力目立つことはしたくないんだ」
「じゃあさ立ってるだけとかでもいいんじゃない?」
「皆本気で頑張ってるとして、俺だけ立ってるだけじゃモチベーション面でも味方の指揮を下げることになるからね」
「そっか....」
大和が説明すると優花は少し元気がなさそうな声で答えうつむく。
「それで明日1日大和は何してるの?」
「うーん.....寝てるかなぁ」
ぶっきらぼうに答える
「わかった!じゃあ明日の放課後楽しみにしてるからね~」
優花は大和がスポーツ大会に出ないことに渋々納得したようで
気分を切り替えたようにさっきより元気に振る舞っているようだった
「任せとけって!
俺のセンスで驚かせてやっるての!」
大和も気分を切り替えようとさっきより元気に振る舞う
それから二人はウィンドウショッピングを再開し、しばらく見てまわると
家に帰ろうと来た道を帰りる。
「まだやっぱり明るいもんなんだな」
時間は7時を過ぎていたのにもかかわらず外は少し明るかった
「そりゃそうでしょ、まだ夏なんだから」
「まぁ、そりゃそうか」
春と秋が無い以上、この国には夏と冬しかなく時期がちょうど半々にある
そのせいで一番迷惑しているのは気温の寒暖の急激な変化だいくら体が強化せれていようが寒いものは寒い
暑いものは暑いのだ。
「そういや優花なんでこの国には春と秋が無いんだっけ?」
優花なら知ってるだろうと思い事ついでに聞く。
「学校の授業で習ったじゃん!
しかも私の記憶が正しければ最近のはず」
「わりーな、無駄だと思ったことは忘れちまうんだ」
ちょっとわざとらしくかっこつけて言う。
「いや全然かっこよくないから...」
「そこは惚れておくのが彼女の勤めだろ!」
その台詞を優花は半分無視していた様子だった。
どうでもいいこと言ってるのを自覚しているので気にはならなかった
優花はそれから仕方ないなぁという顔つきでご丁寧に説明を始める
「授業で習った通りに簡単に言うと
この国は季節を司るエルフの国と繋がっていました。
エルフの国はとても平和で争い事など起こりませんでした。
なので当時の国では四季に別れ季節によって様々な輝きを見せていました。
ですがある日突然1人のエルフが一日にして春の国を滅ぼしました。
そのエルフはダークエルフと呼ばれ、そのダークエルフは滅ぼした春の国から季節の維持に必要な春の宝玉を奪い取ってしまいました。
それによって一番はじめに春がこの国から消えました。
そのダークエルフは更なる力を求めて次は秋の国に攻め込みました。
ダークエルフの力はやはり強く数日で国を滅ぼし次は秋の宝玉を奪い取りました。
それによって次は秋がこの国から消えました。
ダークエルフは更なる力が欲しくなり、もっと宝玉を奪おうと考えました。
ですがその頃には夏の国と冬の国が結束しダークエルフを倒そうとしていました。
そして結束した国とダークエルフが作り出した闇の軍勢が戦いを始めます。
その結果は結束した国が勝利を掴み取りました。
負けたダークエルフは力を使い果たしてしまい抗う力は残っていませんでした。
両国の女王はダークエルフを殺そうと考えましたが、このエルフの国では死んだ魂が希に甦ってしまうことがありました。
それでのダークエルフの復活を恐れた女王達は、その力を封印し他の世界へと飛ばしてしまいました。
これによって夏と冬は守られたのです。
だってさ」
「なるほどねぇ
まるでファンタジーの世界だなおい」
そういえばこんなこと習ったなぁと少しだけ頭のなかで思い出す。
「あまりも科学的じゃなくて信じられないよね
なんでこんな話が認められたんだろうね」
優花もまったく信じていない様子だった。
「俺は優花は信じてると思ってた」
少し笑いながらからかうように言う。
「そんなわけないでしょ!
私そんなメルヘンガールじゃないし‼」
優花は少し強く否定する。
怒った様子ではなかったが、その一生懸命否定する姿が少し可愛かった。
それから少し喋りながら歩くと、いつも二人が別れる場所までついた
「じゃ、また明日なー」
「また明日~!
プレゼント楽しみにしてるからねーー」
二人はそこでいつも通りに別れ家に帰った
そこからは直ぐに自宅まで着きインターホンを鳴らす
ピンポーン
そうすると直ぐに玄関のマイクから女の人の声が流れる。
「おかえりなさいませ大和様
ただいまお迎えに参ります。」
その優しい声は1年前から仙波家に来たメイドのサーシェだ。
「いつも、ありがとうございます」
そう返すとマイクが切れ玄関が開きサーシェが迎えてくれる。
「おかえりなさいませ
お荷物をお預かりしますね」
サーシェにいつも通り荷物を渡す。
「もう既にご飯が出来上がっていて、千里様がお待ちしておりますがいかがなさいますか?」
「げっ姉さんわざわざ待ってたのかよ...」
大和が少しだけ嫌そうな顔をする。
千里は大和の1つ上の姉だ、決して嫌いと言うわけじゃないのだが
なんせ性格が少し怖いものだから大和自身ずっと尻にひかれているような状態だ。
そりゃ少しは苦手になるさ。
「後でお食べになりますか?
それならばラップをかけて置いておきますが。」
「いや姉さんが待ってるってことは何か用事があるはずだろうからね
ここで行かないと後々怖くなりそうだから、すぐに食べるよ」
「そちらの方が私も嬉しいです。
やはり作りたてを食べて欲しいのが、作り手の本心ですから」
サーシェはそう言いながら優しく微笑む
サーシェの料理はとても旨い。
これはお世辞無しにサーシェの料理をそこらへんの料理人よりはずっと上手だと思っている
「じゃあ、いただきますか」
大和はサーシェに荷物を預けると飯を食うためリビングに入る。
そこには美味しそうなシチューの臭いが広がっていて、臭いを嗅ぐだけで食欲を刺激する。
だがリビングの机には姉である千里が座っていて、大和がリビングに入ったのを確認すると大和を見つめて微笑んでいた。
「た、ただいま姉さん
待っててくれるなんて珍しいね、いつも先に食べてるのに」
大和は少し恐る恐る言う。
「大和お帰り
明日は何か予定あるの?」
あれっ思った以上に姉さんの態度が柔らかいぞ、いつもはもっと威圧感あるのに
「明日は放課後を待って家で寝てるつもりだけど」
正直何を言われるのか分からず警戒していたが思いの外大丈夫か
「今年もスポ大には出ないのね」
「姉さんもでないんだろ?」
「私も目立ちたくないのよ
ということは明日半日以上は暇ってことね、付き合いなさい」
「えー」
明日半日以上寝てようと思っただけに、いかにも嫌そうに答えてしまった。
「文句あるの?
暇なんでしょ?」
千里が威圧感を発しながら言う
「付き合ってって言っても、どこに行くのさ?
なんか行くとこあったっけ?」
「武器のメンテナンスよ
ついでに大和も見てもらいなさい」
「武器のメンテナンスってことは隣街だよね?
3時くらいまでに帰れる?優花に誕生日プレゼント渡したいんだけど」
「大丈夫よそのくらいには帰ってこれるわ」
ちなみに武器とは大和と千里がプレゼントとして母親から貰ったものだ。
ちなみに武器の形状は大和が両腕の手首に装着できる特殊合金使用のロングナイフだ
千里は特殊合金で加工したグローブだ
特殊な金属ゆえ1年に1度メンテナンスが必要だった
なんでこんなもの貰ったのかと言われれば、どう説明すればいいのか分からないが
仙波家では大和が中学3年になるまで親相手に戦闘訓練が行われていた。一回も勝てた試しはなかったが
「わかったよ姉さん明日は何時に家を出るの?」
「そうねじゃあ朝の11時くらいにしようかしら
物分かりがいい弟で助かるわ。」
「俺はもっと無茶振りな事要求されると思ったよ」
「私が無茶振りしたことなんてあったかしら?」
「.........」
素で言ってるのかと思い、おもわず黙ってしまった。
「なんで黙るのよ..」
千里にじっと睨まれる
「じゃあ俺は部屋に戻るよ」
「早いのね、じゃあ明日はちゃんと起きるのよ」
「わかってるよ」
飯を食い終えると大和は静かに席を立ち逃げるように部屋に逃げる
階段を上がり大和は部屋に入ると即座にベッドに飛び込む
「はぁー疲れた
明日は寝てようと思ったんだけどな
まぁ恒例の姉さんのわがままだから、もう慣れたけど」
それから着替え風呂に入ると再び寝るために部屋に戻る
携帯機器を確認すると優花からメールが来ていた
内容は明日楽しみにしてるとの簡単な内容だった。
それに対して簡単に返信すると再びベッドに飛び込む
それから暫くすると自然と意識が落ちていった。
次の日大和は気分よく目を覚ます
時計を見るとまだ朝の8時だった起きるのが早すぎた気もする
「まだ早いな.....もう1時間くらい寝るか」
昨日早く寝過ぎたせいで早々に目覚めてしまった
もう一度寝ようと再び布団に潜り込むが全く眠気が来ない。
「起きてもやることないんだよな」
ベッドから起き上がると部屋にあるゲーム機を起動しゲームを始める。
寝起きからか本調子がでない。
イライラしてくる事もあったが、時間はすぐに経過した。
「いつの間にか10時半か
そろそろ準備するか」
大和は部屋の奥のクローゼットから服一式を出してぱっぱと着替える
「そういや今日は武器のメンテだったな
地下室から取り出してこなきゃ」
それから出掛けるための物を用意しリュックのなかに忘れないようにと優花へのプレゼントもしまっておく
用意し終えると家の地下室へと降りていく
地下室には大和の武器を含み様々な大切なものが保管されているのでセキュリティは生体認証となっていて厳重だ
中にはよくわからないものも入っていたりするのだが、でも何かしらに使うと判断されているんだろう数年前からそのままになってたりするものもある
ピピピピピピピ
ウィーン
大和がセキュリティに指をかざすと機械音と共に扉が開く
それから目的のものは直ぐに見つかった
あらかじめいつも分かりやすいように分かりやすい場所にかけてあったからだ
「あったあった」
大和はその物騒な物を手に取る。
その武器はパルプテンクスと名付けられた両腕装着式の2刀ロングナイフで、あまりの切れ味ゆえ今は刃の部分が特殊な鞘で覆われていた
大和は昔から異常に身体機能に優れていてパルプテンクスを軽々と使いこなすことができるが
パルプテンクスは普通の金属よりかなり軽い素材で造られているので普通の学生でも使えそうなくらい扱いやすい
「さて忘れ物は無いよな」
ピピピピ
ウィーン
大和が地下室から出ようとすると、千里が地下室に入ってきた。
「あら大和も取りに来てたのね」
「うん」
千里は大和に話しかけながら自分の武器を取りに行く
そして大和と同じく掛けてあった武器を手に取り手にはめてみる
「やっぱりニケは手に馴染むわね」
千里は腕をぶんぶん回してみる
「危ないって姉さん」
「ごめんごめん」
千里の武器はニケと名付けられた総合格闘技グローブに大和の武器と同じく特殊合金で加工されたものだった
大和の武器と比べればなんて事ないように見えるが大和を上回る身体能力をもつ千里が扱うのだから殴るだけで普通の人は死ぬくらいの威力は出るだろう
「今思えばなんで私達戦闘訓練なんて受けてたのかしらね
今のこの国には全くいらないじゃない」
千里がボソッと愚痴る
「両親は本当になに考えてるか分からないからね
よく分からないよ」
大和はそう言うが実際そうだった両親の大悟と結衣は何を考えてるのか分からない子供から見ても不思議な人だった
大和と千里の異常な身体機能も両親が原因であり、そのためにも色々苦しい目にあったので正直姉弟は両親が好きではなかった
まぁ今となってはその両親は出張といって出ていったきり1年は戻ってきていないのだが
「さて大和そろそろ出ましょうか」
「了解」
姉弟揃って地下室を出て玄関から外に出ようとするとサーシェが二人を送るために玄関まで小走りで来てくれる
「お二人ともいってらっしゃいませ!」
サーシェにしてはいつもより元気に送り出してくれる
「いってきまーす」
「いってきます」
二人揃って家を出て先ずは電車に乗るために神代駅へと向かう
駅までそこまで遠くはなく、気温も昨日ほどは高くなかったので特に問題もなく駅までついた
しかし駅に着くと謎の違和感を感じる、それは大和だけではなく千里も同じ様子だった
「姉さん何かおかしくない?」
「やっぱり大和も気づいていたのね」
その謎の違和感は空から感じ、二人は空を見上げるだがそこには何もない
「気のせいか」
「私達二人が同時に気づいて勘違いなんて事あるかしら」
二人は感覚を研ぎ澄まし聴覚に意識を集中させる
そうすると、僅かではあるがエンジン音のような音が聞こえてきた
それから再び意識を視覚に集中させるが何も見えない一体どうゆうことなのか二人には全く分からなかった。
「やっぱり何も見えないわね
大和行きましょう」
千里は見えないのではどうしようもないと判断し
その違和感を無視し電車に乗ろうと構内に入ろうと再び歩き始める。
「待ってよ姉さん」
大和も千里にながされるように駅の構内に入る
電光掲示板を見ると、あと5分で電車が来るジャストタイミングだった。
二人は隣街までの切符を買うと、電車に乗り込み隣街へ向かう。
隣街までは電車で僅か10分でつくほど近い。
電車内では無言の空間が続いた
そして隣街に着くと改札を出て目的の人のもとへ向かう
目的地はそこまで遠くはなく歩いて15分程度、見た目はただの一軒家のような感じで非常に入りやすく、メンテナンス職人の史郎さんもとても優しい。
「おじゃましまーす」
「おじゃまします」
目的地へ着くと玄関を開けて中にはいる
「はい、いらっしゃい」
奥から史郎さんが迎えてくれる相変わらず優しさが雰囲気からもでてるくらい温厚そうな人だ。
「史郎さんお久しぶりです
武器のメンテナンスお願いします」
千里が頭を下げて挨拶をした後ニケを取り出して史郎さんに渡す
「俺のもお願いします」
それに続いて大和もパルプテンクスを渡す
「かしこまりました
1時間ほどお待ちいたいでよろしいですか?」
「はい、かまいません」
「ありがとうございます」
それから史郎さんは奥の作業部屋へ入っていった。
史朗さんは両親の知り合いらしく何の恩があるのかは知らないが、このようなメンテナンスを無料でやってくれていた。
「じゃあ大和、昼食でも行きましょうか」
「了解」
二人は待ち時間に昼食を食べようと外へ出て、いつも行くカフェへと向かう。
隣街は学生達が多く遊ぶ街でもあって神代市よりもカフェや娯楽施設などが整っている。
神代市の多くも学生も放課後にはこの街に遊びに来ているようだ。
だが今日は平日のお昼、こんな時間帯に学生達がこんな場所にいるわけもなく静かだった。
カラーンカラーン
二人がカフェに入ると鐘のような音がなる。
カフェの中は静かだった、平日の昼間ならそのようなものなのだろうが常連であろう人がちらほら見える。
「さーてなににしようかな」
大和は席につくと即メニューを開く。
しかし千里はメニューを見ない。
「どうしたの姉さん?食べないの?」
「私はいつものを頼むからいいのよ」
「またオムライス!?それしか食べてないじゃん飽きないの?」
千里はこのカフェに来る度にオムライスを食べていたが千里はここ2年くらいそれ以外を頼んでいないような気がした。
「私は私なりにこだわりがあるのよ
大和なんかにはわからないでしょうね」
「なんか遠回しに貶されているような気がしなくもない」
「気のせい被害妄想よ」
千里はきっぱり言いきると店員を呼びメニューを頼む。
ちなみに大和はスタンダードなカレーを頼んだ。
激辛に挑戦しようか迷ったが、ここで腹を壊して千里に迷惑をかけると後々怖いので無難な方を選んでおいた。
それからしばらくすると二人のメニューが同時に運ばれてくる。
オムライスもカレーも食欲を誘ういい臭いだ。
かなりこのカフェに来ているのだが大和がカレーを頼んだのは初めてだったので少し楽しみだった。
「いただきます」
「いただきます」
食べ始めると二人の間に会話は少なかった。
大和は携帯機器をチェックすると、優花からメールが来ていた。
[今何してるの?こっちは盛り上がってるよ!大和も来ればいいのに]
との内容だった。
それに対して大和は
[こっちは今姉さんと昼食を食ってるよ。そっちはそっちで楽しんでな]
と返信した。
優花は幼馴染みとはいえ大和の家庭事情などは知らないのに、そこに武器のメンテナンス何て言えばただの頭のおかしい奴に見られるか、嘘って言われた後真実は何だと言及を求められるだろう。
だから無難で文で返信しておいた。
千里を見ると黙々と食べ続けていて雰囲気からもう話しかけにくい。
それから二人は食べ終え会計を終えると直接武器を取りに行ってもまだ早いので、遠回りして向かうことにした。
「そういや大和、優花ちゃんとはどうなの?」
「どうって..そりゃ普通としか答えようないよ」
千里は何故か溜め息をはく
「あれ、俺何かした⁉」
「返答がつまらなすぎるわ男ならもう少し女を楽しませる会話でもしてみなさいな。
そのうちつまらないって捨てられても知らないわよ。」
「何故俺がそこまでして姉さんを楽しませないといけないんだよ。
姉さん彼氏いないくせに。」
「私はいないんじゃなくて、つくらないのよ」
「それもう10回は絶対聞いてるよ...」
「何か文句でも?」
「いいえ、ございません」
それからも二人は会話を続けながら史朗さんの家へと向かう。
気のせいかもしれないが久しく出かけて、千里は少し楽しそうにしているように見えた。
丁度1時間たったくらいに史朗さんの家に着き二人は中へ入ると、既にそこには史朗さんがメンテナンスを完了させて待っていた様子だった。
「待たせてしまいましたか?」
千里が聞く。
「いえいえ、時間丁度ですよ。
今回のメンテナンスは特に問題が無くて直ぐに終わってしまいましてね。」
そう言いながら二人にニケとパルプテンクスを渡す。
「ありがとうございました」
姉弟は二人揃って頭を下げお礼を言う。
それから二人は寄るとこもないので直ぐに帰宅しようと駅へと向かう。
駅に着いて電光掲示板を見ると、次の電車までは30分ほどあった。
「どうする姉さん?」
「特にやることもないし、このまま駅の構内で待っていればいいでしょ」
そう言うと千里は切符を買い駅の構内に入って行ってしまった。
大和は携帯機器を開きメールの欄をチェックするが、優花からの返信はまだ来ていなかった。
「うーん、やることないし俺も構内に入っちゃうかー」
大和も駅の構内へと切符を買い入っていく。
既に構内にいた千里の隣に並び千里の様子を見ると夢中で携帯機器を弄っていた。
「姉さん何してるの?」
「携帯機器を弄っているだけよ。」
千里が携帯機器を弄りながら答える。
「そういう事じゃなくてさ...
何調べているのかなと思って。」
「あーなるほど、そういうことね。
大したことはしてないわよ両親とのメールをチェックしていただけよ。」
「えっ、マジで?」
大和は大袈裟なくらいに驚く。
両親が出ていったきり大和は音信不通だったので両親と身内が連絡をとっていたことに驚いた。
「母さん達とどんな内容の話してんの?」
「そんな大した内容じゃないわ、ただの近況報告とかよ。
大和の事も全て報告しといてるから。」
「余計なこと言わないでくれよ.....」
それから暫く話し込んでいるとホームに電車がやって来る。
二人は電車に乗り込み、席を探し席に座る。
それから二人は神代駅まで無言だった。
それから神代駅に着き二人は電車を降りると、朝神代駅で感じたより大きな違和感を感じた。
それは違和感というレベルではなく、何かが違うと確信できるレベルのものだった。
「姉さん何これ?」
「知らないわよ。
でも何かが起こるのはもう確定みたいなものね、警戒して帰りましょ」
二人は警戒心を解かずに駅を出て家に帰ろうと歩き始める。
すると何か風を切る音が聞こえる。
その僅かな音を聞き取り二人は空を見上げる。
「姉さん何か落ちてくる!」
「わかってるわよ!」
二人は空から落ちてくる謎の物体を確認するとそれを避けるように距離をとる。
ドガァァァァァン
大きな音が地面に鳴り響く。
「何よこれは」
そこにあったのは大きな黒い塊だった。
そして周囲に人々の悲鳴なようなものが鳴り響く。
塊が落ちたのはここだけではないようだ。
ゴゴゴゴゴ
その塊は突如謎の音を発し始めると球体にヒビが入った。
「何か出てきそうだね。
嫌な予感しかしないけど。」
「大和、武器を装着しておきなさい。」
二人はバッグから武器を取りだし、それを装着する。
次第に周囲の悲鳴が大きくなっていく。
恐らく悲鳴の規模から考えるに、この塊は神代中に落ちているのだろう。
バリバリ
音をたてて球体が完全に割れる。
その中からは、かなり大きい人形の何かがでてきた。
「人形ロボット?」
「そうみたいね」
それはかなり大きな人形ロボットだった。
左手の部分は人の手と同じような構造だが、右手の部分がガトリングのようになっているのが特徴的だった。
それに連ねて周囲からは銃声が鳴り響き始めた。
目の前のロボットも二人にガトリングの銃口を向ける。
「・・・・・・・」
しかし次の瞬間にはロボットの首が飛び機能を停止していた。
「やるわね大和」
大和は瞬時にパルプテンクスでロボットを壊したのだ。
「姉さん状況も分からないし、一旦家に帰ろうか。」
「そうね、それが最善の判断でしょ」
二人は足を揃えて普通の人間では考えられないほどの凄い速さで街を駆け抜けていく。
しかし既に街にはかなりの量のロボットが降っていた状況らしく。
また2機が二人に気づき銃口を向けながら迫ってくる。
「次は私に任せなさい。
大和は先に家に帰ってサーシェが無事か確かめなさい。
いいわね?」
「了解。
姉さんこんなとこで死なないでよ。」
「私を誰だと思ってるのよ。」
鼻で笑ったような声でそう言うと、千里は足を止め真逆から迫るロボットの方に方向を切り替え身を低くしながら走り出す。
「ま、姉さんなら大丈夫でしょ。
それより優花も心配だな....今学校だろうし大丈夫なのだろうか。」
大和は走りながら千里の事よりも優花の事を心配していた。
ドガァァァァァン
それから直ぐに家に着くかと思ったが、また大きな音をたて塊が1つ大和の前に落ちてくる。
そして即座に塊を破りロボットが外に出てくる。
「またかよ、めんどくさいな。」
そのロボットもまた銃口を即座に向け発砲してくる。
「それは当たらないって。」
大和は射線上を避けながら、即座にロボットの死角に回り込む。
それからはさっきと同じように、ロボットの首を切断した。
大和は機能を停止したのを確認すると家に向かって再び走り出した。
それからはロボットに会わず家に着いた。
「ただいまー、サーシェ大丈夫?!」
大和は家に着くと急いでサーシェの安全を確認しようと、玄関を走りながらあがりリビングの扉を開ける。
「おかえりなさいませ。
そんなに急いでどうにかなさったのですか?」
そこには何一つ変わらず家事をこなしているサーシェがいて大和はとりあえず安心した。
「サーシェ大変なんだって、なんだかよく俺にも分からないけど街がロボットに襲撃されてる。
速くどこかに逃げないと‼」
「あまり現実的ではなくて信じられない話ではありますが....そこまで焦って仰るというなら本当の事なのでしょう。
それでこの状況...どういたしますか?」
サーシェはこんな状況でも冷静だった。
「サーシェ落ち着いてるね」
大和はサーシェのこの状況での冷静さに少し驚く。
「私も結衣様に特別な訓練を受けていた時期がありましたからね
このくらいじゃ全然動じませんよ。」
「サーシェも色々受けてたんだね
はじめて聞いたような気がするよ。」
大和は自分達以外に親に何かをされていた人はいないと思い込んでいたので、さりげないサーシェの告白に内心かなり驚いていた。
「そうですね、辛い体験をわざわざ人に話しても面白くないですしね。」
サーシェが微笑むような顔で言う。
「ところで大和様このままお話を続けている場合ではありません
至急準備してこの街を抜けましょう。
大抵の銃弾なら私の車なら大丈夫ですから。」
「そうですね、そうしましょう。」
サーシェの車は大和の母親である結衣から貰ったものらしく、何故だか知らないが装甲からガラスまで全て防弾仕様になっていた。
だがその日常だと役に立たなそうな装甲車も今の状況ではとても強い味方に感じた。
「そういえば千里様を見かけませんが、どこにいらっしゃるんでしょう?」
「姉さんならすぐに帰ってくると思うよ。」
そう言って大和が準備をしようと自室に行こうとリビングを出ようとすると近くに千里の気配を感じた、多分何の問題もなく帰ってきたのだろう。
「ただいま」
千里がいつもと変わらぬ様子でリビングに入ってくる。
「おかえり姉さん」
「おかえりなさいませ千里様」
サーシェは千里が安全に帰ってきて少し安心した様子だった。
「姉さん無事でよかったよ
これからの事なんだけどサーシェが教えてくれると思うから。」
そう言い千里をサーシェに任せると大和は自室に向かう。
自室に着くととりあえずリュックに必要だと思うものを詰め込む。
準備を即座に終わらせると、携帯機器を開きメールの欄をチェックするが優花からの返信がなかった。
「優花無事でいてくれよ....」
優花が心配でどうしようもなかった大和は一度学園に寄ることを二人に提案してみようと考えた。
学園までの距離は近いしそこまで問題はないはずだ。
全ての準備を終わらせ車庫に向かうと既にそこには千里とサーシェが荷物を積んでいた。
「大和手伝いなさい。」
千里は大和を見つけると積むのを手伝うよう命令する。
「わかってるって」
即座に手伝いに向かい荷物を見ると銃など色々な物騒な物が用意してあった。
さすがにこれだけあれば大丈夫だろう。
それから黙々と作業を続けるなかで、大和は先程考えていたことを提案する。
「姉さん、サーシェちょっとお願いがあるんだけど」
「なによ?」
「なんでしょう?」
千里の目線が少し怖かった。
「ちょっとだけでいいから学園の様子が見たいんだけど、どうかな?」
「別にルートに問題は出ないと思いますし、いいのではないでしょうか。
千里様はどう思いますか?」
「私は構わないわよ。」
大和の要求はあっさりと受け入れられた。
正直千里から何かしら言われるのではないかと思っていたので少し驚いた。
それから3人は即座に準備を終わらせ車庫を出ようと扉を開ける。
「どうやらご丁寧に私達を待っていてくれていたようですね。」
開けた先には3機のロボットがこちらに銃口を向けて待ち構えていた。
「サーシェ豪快におもてなししてしてあげなさい」
「かしこまりた千里様。
少々揺れますのでお気をつけください。」
千里とサーシェがニヤリと笑う。
「死なない程度にしてくれよ...」
大和が呆れた声で言う。
ブゥゥゥゥゥゥン
凄い音をたて車が発車する。
初速からかなりの速度で動き出した車は、目の前のロボット達を容赦なく轢き壊す。
その際に少しガトリングに撃たれていたようだったが、そんな些細な事はこの装甲車には関係ないようだった。
「千里様、大和様安心してください私安全運転主義ですから」
「その言葉かなり信用できないって!」
それからもサーシェは道を阻むロボットを轢き壊しながら学園へと向かっていた。
サーシェの運転速度と運転技術もあって学園付近にはすぐに着いたが、学園の周りには囲むようにたくさんのロボット達が並んでいた。
「なんで周りを囲ってるんだろ?
殺すのが目的なら中に入り込めばいいのに。」
大和が疑問に思う。
「今回の襲撃自体意図が全く分かりませんからね。
私達が思ってる以上の思惑があるのかもしれませんね。」
「とりあえず状況を見る限り学校の人は監禁されているだけで無事でしょう。
よかったわね、あなたの彼女もきっと無事よ。」
大和は優花が安全なようで安心していた。
だが今は安全かもしれないがこれからどうなるかわからない、どちらにしろ何とかしなければいけなかった。
「あのくらいの数ならば積んである物でなんとかなるかもしれません。
ですがそれには千里様と大和様の力が必要なのですが、ご協力お願いできますか。」
「もちろん協力するよ。
この件は俺のわがままだったわけだしね。」
サーシェに対して大和が即答する。
大和は目に見えてなんとかしなければならないと焦っていた。
「姉さんお願いしてもいい?」
少し恐る恐る聞く。
「しかたないわね、これ貸し1つだからしっかり覚えておいてよ。
私の貸しは高いからね。」
「ありがとう姉さん。
それでサーシェ俺達は何をすればいい?」
「作戦自体はとても簡単です。
私が車でロボット達に突っ込めば、私の方に向かってくるでしょう。
そうしたら集まってきたロボットを手榴弾など火器で壊してください。」
「えっそれだけ?」
その内容はあまりにも簡単な内容だった。
「この状況では悠長に考えてる暇がないですから
それではそろそろ始めましょうか」
それからサーシェの指示を受け千里と大和は車から降り爆発物を降ろす。
「ではお願いします。」
「了解」
「了解したわ」
次の瞬間にサーシェは一気に車を加速させロボット達に突っ込む。
それだけで数機は破壊できたようだ。
「あら、凄いこと」
「荒々しい.....」
降りた2人はサーシェの運転技術に感心していた。
サーシェは荒々しく運転するも、どこにもぶつからずに正確にロボットを破壊していく。
しかし周りのロボット達がそれに気づき始め車を集団で囲み銃口を向けてガトリングを撃ち始める。
いくら装甲車とはいえ、あれではそこまでもたないだろう。
「大和そろそろ行くわよ」
「さて、ぶちかましますか」
二人は武器を装着し手榴弾を腰に取り付け一気に隠れていた場所から走り出す。
「壊れとけ!」
大和と千里はサーシェの車周辺に手榴弾を投げ込む。
それはただむやみに投げ込んでいるだけではなく爆発範囲をある程度把握し装甲車を傷つけないように投げられている。
これは両親から受けた訓練の賜物だ。
一瞬のうちに音と共にロボット達が破壊されていった。
「ふぅ.....」
「大和まだ終わってないわ油断しないで。」
かなりの数壊したつもりだったが次々と他の場所から増援が来ているようで、はじめにいた数とあまり変わらなかった。
次は標的が二人に変わる。
次々にロボットの銃口が向けられ発砲されるが、二人は銃口の向きから弾道を予測し上手く避けながら近くにあった車をバリケード代わりにして隠れる。
「どうする姉さんこのままじゃ長くはもたないよ。」
「わかってるから、静かにして。」
ロボット達はこちらに向かうと共に容赦なく車に銃弾の雨を浴びせてくる。
このままでは時間の問題なのは事実だ。
キィィィィィィィ...ガシャーン!
だがそのロボット達を後ろから追ってきたサーシェが轢き壊す。
サーシェの装甲車を見てみると、かなり攻撃を受けたのかかなりボロボロになっていた。
ロボット達を壊し終えるとサーシェは装甲車を近くに停め二人のもとへ走ってくる。
「二人とも大丈夫ですか!?」
見る限りサーシェに外傷はないようだ。
「全然平気だよ。」
「問題ないわ。」
二人も多少足を擦った程度で目立った外傷はない。
「今のうちに学園へ入ってしまいましょう。」
サーシェがそう言うと共に3人は校門を抜け校庭に入る。
学園の窓からみんながこちらを見ている。
どうやら学園の生徒は無事らしい。
「よかったわね大和。」
「本当に安心したよ...」
大和は優花の安全を確信すると疲れがきたのか校庭に座り込んだ。
「ですが学園を助けた今この状況、これからどうすればいいのか目処が立ちませんね。
恐らくそう長くここにはいられないでしょうから。」
「みんなには学園の地下にある防災施設で待っていてもらうのが一番安全ね
そのうちに私達が神代市を抜けて助けを求めるのがいいと思うのだけど。」
「さすがにこれだけの異常事態気づいてないはずないだろ」
座り込んでいた大和が会話に入る。
大和の手には優花へのプレゼントが握られていた。
「大和ーー!」
突然3人以外の大きな声が聞こえる。
「優花ー!」
それは教室から学園の昇降口へと降りてきた優花だった。
大和も大きな声で名前を呼び返す。
しかし、そのとき大和は再び違和感を感じる。
「優花こっちに来るなっ!」
「えっ!?」
優花はかなり驚いた様子だったが、しっかりと言う通りにその場で立ち留まった。
「姉さん」
「言いたいことはわかってるけど、この状況で囲まれると私達でもまずいかもね。」
二人はその違和感に気づき、どうにかしようと考えていたが二人にはこのままでは囲まれてしまうということも分かっていた。
「どうかなさいました?」
二人の異変をサーシェが気づく。
「サーシェこのままじゃ囲まれる。
だけど学園に逃げたら生徒が殺されちゃうかもしれない。」
大和と千里の顔は険しかった。
「そうですか...」
「サーシェ?」
サーシェの顔は覚悟を決めたような感じに変わっていた。
「まずはこれを受け取ってください。
そして逃げ切るまで絶対に中身と手紙は読まないでください。」
サーシェは二人に小さな小箱を2つと手紙の入った封筒を渡す。
「サーシェこれは何?」
「それも秘密です。
私の車もかなりダメージを受けていて長くは走れないでしょうが、それに乗って神代市を抜けてください。」
「サーシェはどうするんだよ!」
大和が声を大きくして少し怒鳴るように言う。
「私はここで囮になります。」
「みんなでやればなんとかなるって!」
大和が声を荒らげる中千里はただ二人を見つめて黙っていた。
「もう時間がありません。
千里様、大和様をお願い致します。」
「わかったわ。
けど最後に教えて何故メイドとはいえそこまでするの?」
千里が静かに聞く。
「私は今まで生きてきた中で仙波家にあらゆる面で援助されていました。
その恩は絶対に返さなければ私が死んでも納得できません。」
「そう。」
千里はそれしか言わなかった。
空から何かが降ってくる音が聞こえる。
もう時間の限界だ。
「優花後から必ず助けにくるから、学園で待っててくれ!」
大和が昇降口で待つ優花に声を大きくして伝える。
「なんだがよくわからないけどわかった!
待ってるからね!」
「おう!」
優花は学園内に再び戻っていく。
「さぁ車に戻って逃げて!
私は必ず10分はもたせる事ができます
そのうちに絶対に逃げ切ってください!」
サーシェが二人に言う。
「サーシェ絶対に生きててくれよ、迎えに来るからな!」
「サーシェありがとう...」
大和と千里はそう言うと、装甲車に向かいエンジンをかける。
「私が運転するわ。」
千里が運転席に座り、市を抜ける山に向かって運転を開始する。
千里と大和は訓練の1つとして様々な乗り物の運転をすることができた。
ブゥゥゥゥゥゥン
エンジン音をたて二人がサーシェのもとから離れていく。
サーシェは静かに校庭の真ん中に立っていた。
ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!
取り残されたサーシェを囲うように塊が次々と落ちてくる。
その数はおよそ30機くらいだろう。
「来ましたか.....。」
サーシェはポケットのようなところから、丸薬のような物を取りだしそれを口に含む。
周りでは次々とロボットが起動してきていた。
「さようなら、仙波家の皆様。」
口の中の丸薬を噛み砕く。
「はぁぁぁぁぁぁ!」
その瞬間サーシェに人間ではありえないようなエネルギーが発生し、身体中からオーラのようなものが出てくる。
「ヴヴ.....」
確かにエネルギーは満ち溢れてはいたが身体中に激痛がはしる。
サーシェの顔つきは変わり目を始め様々な箇所から出血してきていた。
ダダダダダダ!
周りのロボット達はそんなサーシェに関係なく銃弾を撃ち込む。
「殺す.....殺してやる。」
サーシェは身体中からでるオーラで銃弾を全て止めていた。
薬の効能か思考が怒りと憎しみの感情で支配されていく。
ダメだ、のまれてはいけないと思いながらもサーシェの思考は薬に支配されていた。
目の前のロボットの数機が一瞬で壊れる。
「弱すぎる。」
サーシェは目に見えないような速度でロボット達の首を切断していた。
そんな油断してそうなサーシェをロボット達が撃ち抜こうとするが一切通用しない。
「すぐに終わらせてやる。」
サーシェが再び動き始めるとロボット達が次々に壊れていった。
学園内から生徒達に見られていたサーシェだったが今のサーシェはそんなことを気にする思考はなかった。
「全部終わった。」
サーシェは3分もかからず全てを壊し尽くした。
ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!
しかし再び増援が空から降り注ぐ。
「まだ時間は残ってるか。」
再びサーシェがロボット達に襲いかかる。
次第に痛みが強まってきていたが、そんなことは関係ないと言うばかりに増援の全てを壊し尽くす。
「グッ.....」
サーシェは全てを壊し終えると痛みで地面に膝をついていた。
自分でも時間はあまり残されていないのがよくわかる。
でも何故か死に近づくにつれて自分自身の思考がはっきりしてきていた。
「ちゃんと逃げ切れていますかね..
それを確認できないのだけが心残りでしょうか。」
それからすぐに身体中に力が入らなくなり仰向けになって地面へと倒れる。
「さようなら....お元気で...」
サーシェはそう最後の言葉を発すると目を瞑った。
どこか終わりのない穴に静かに落ちるような感覚でゆっくりと意識が消えていった。
大和と千里の二人は学園から離れた後順調に進んでいた。
「あとどれくらいかかるの姉さん?」
「後五分もかからないわ。」
道中はやけに静かだった。
ロボットが一機もいなく、あるのは人の死体だけだった。
神代を抜けるトンネルが見えてくる。
そこには3機のロボットが待ち構えていた。
「姉さんあれ」
「わかってるわ」
ロボットの腕にはガトリングではなくロケットランチャーがついていた。
千里はドリフトし装甲車がロボットに対してバリケードになるように停めようとする。
「無理だ姉さん間に合わない!」
ドリフト前に装甲車はロケットランチャーの衝撃で横転した。
まだ爆発しないだけましだったものの、車内にいた二人は滅茶苦茶な状態になっていた。
「痛いわ大和。」
「いや姉さんの判断ミスだろ。」
「行けると思ったのよ。」
二人の声は逆さになったのにも関わらずいつも通りだった。
逆さになった車の中で二人は外に出るための準備をする。
とはいっても大和と千里が持ち出したのは、武器とサーシェから貰ったものとそれに大和が追加して優花へのプレゼントを持った程度だ。
二人はそれからゆっくりと車内から脱出しゆっくりと外に出る。
そこにはロケット3機が待ち構えていたが、先程武器のロケットランチャーを使いきってしまったのでただの2足歩行のロボットだ。
「痛かったじゃない。」
「邪魔すんなよ。」
二人はそう言うと3機をぶち壊した。
それから2人は徒歩でトンネル内に入るが、中は何故か霧のようなものが充満していた。
「これどうなってんだ。」
「わからないわ、でも進むしかないでしょ
行くわよ。」
千里はそれに関係なしに大和の先を進む。
やけにトンネル内は寒く長い。
「なんか寒いね。」
「確かにね、でも気にするほどじゃないわ。
それより先が見えない方が嫌ね。」
その霧の中を進んでいくと光が見えた。
「姉さん出口みたいだね。」
「そうみたいね。」
二人は足を揃えて出口であろう光に入っていくが、入った瞬間地面がないことに気づく。
その下は真っ白な霧だけで、二人はそこ落下するしかなく凄い速度で落下していく。
何故か意識が朦朧としてくる。
「姉さんんこれヤバくない?」
「ここで死ぬとか絶対嫌よ。」
二人はそれからすぐ意識を失いそのまま霧の中へと落下していった。