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夫婦2

夫婦編は終わりです。こちらは約1時間で何がどれほどできるかシリーズなので甘い点、矛盾が多いでしょうが習作ということで御容赦ください。とにもかくにも、書くだけ書いて練習したいのです。

例によって、スマホからで何故かスペースを入れても文頭が空きません。

渡辺は冷静だった。胸元から鳴り響くスマートフォンを取り出すと、そのまま着信を切り上げた。

「ここまで調べはついているのなら、僕がどのような人間なのかもご存知かと思うのですが」

渡辺は新聞を折り畳みながら言う。そして、一息入れると私ではなく後ろにいる光里さんへと睨みを利かしていた。ヤクザ映画の中堅、といった印象だ。

「ええ、あなたは表上では清く金銭管理をなさっていますね? ですが、私はあなたの本職というよりも本懐を知っています。あなたの−−」

渡辺は手を翳す。私がぴたりと言葉を止めると、渡辺は人差し指を立てて唇の前に持って行った。いわゆる、シーッのジェスチャーだった。

「貴女が何者かは僕は存じませんが、僕は自分の上に立つ方が何者かは理解していますよ。この点に関しては得体の知れない貴女以上に。必ず」

強い言葉だった。

今までの二五年の人生で知っている。強い言葉とは怒鳴ることでも脅すことでも無い。否定のできない言葉だ。否定ができなければ、あとは話す者の誠意次第だとも。

「それは脅しですか?」

けど、それがこちらの負ける理由になりはしても退く理由にはならない。

「不幸は誰にも起きます。五十嵐夫妻に関しましては−−、失敬。柊光里さんには、その不幸に対して既に保険に加入いただいております。貴女もどうでしょうか?」

「結構です」

沈黙が流れた。私は一瞬たりとも渡辺から目を離そうとしない。しかし、そのために背後のおねえさんが気になっていた。息づかいがさっきから妙なのだ。

はぁはぁとなったりしては、はー……はー……とも、呼吸が乱れている。それは緊張から来る過呼吸なのかもしれない。

私は紛いなりにも家族だ。おねえさんの身体が同性の私と比べても弱すぎる事を知っている。光希くんの出産の際に出血多量で死の寸前まで迫っていたのだ。

渡辺が鼻で何か笑うと、後ろから鈍い音がした。

私は振り返った。おねえさんが椅子から転げ落ちたのだ。顔は再会した時より青い。むしろ、土気色だ。何か話そうと口を動かしているのか、酸素を求めているのか。とにもかくにも必死なのが見て取れた。

「……不幸は身近ですね。柊さん」

後ろ、さっきまでの正面にいた渡辺の声が聞こえた。呪詛が咄嗟に口から出そうになった。それより先に体が動いた。渡辺の後ろには−−

「不幸は事故だけじゃない」

カズ兄が立っていた。カズ兄は、渡辺の肩に手を置いた。

「久しぶりだな、政くん」

「……どちら様で?」

「とぼけるなよ、政くん。間男のお前の罠だったわけだ。全部聞かせてもらったよ」

「…………」

渡辺の顔に困惑の色が浮かんでいた。しかし、それも束の間のこと。

「五十嵐一樹さん。あなたには貴方には無関係だ。それにそこの貴女もだ。僕が話したいのは柊の方々だ。柊宗治に貸した金の話をしたいのですよ」

「ならば、なおさらだ!」

静かな強い、よく響く声でカズ兄は言う。

「光里も光希も俺の家族だ」

「何をバカな……」

「俺は、離婚届を出していない」

カズ兄は、ヨボヨボのジャンバーから綺麗に折り畳まれた離婚届を取り出した。そして、そのまま破いた。ビリビリと紙片が散らばった。

「……不貞の証拠をお見せしたはずですよ」

「俺は、確かに一度はお前を信じてしまった。だが、光里の話をお前程に聞いちゃいない。それになにより……」

カズ兄はおねえさんを見た。

「俺の、家族だ」

おねえさんの瞳からは止め処目ない涙が溢れていた。大きな雫が何度も何度も……。



結論から言うと、裁判へと話は持ち込まれた。

法律に詳しくないからよく分からないが、渡辺は合法の仕事にしか手を出していなかった。そして、渡辺のバックが前に出てくることもなかった。裁判はいまだに続いていて、おじいさんの遺した借金がどのような物なのか、おねえさんたちが払わなくてはならないのか……などなどの難しい話をカズ兄は弁護士とよくしている。

そして、私は久しぶりにゆっくりくつろいでいるカズ兄達の元へと遊びに行った。

「おばさん、こんにちは」

光希くんは十一歳で、思春期へ入りかけてるせいなのか少し距離を感じてしまう。

「あの時は悠ちゃんのお世話になったね」

光里さんは不貞を形だけとは言え働いたことで負い目を感じているらしい。それでも、一見は平凡な家庭だ。

「悠、お前は結婚しないのか?」

「カズ兄、気が早いよ」

「それは無い。むしろ、お前はもっと女らしくなれ。所帯を持って安心させろ」

「いいじゃん、こうして私たちは家族なんだし」

……出会いが無いのはたまたまだと信じたい。

「家族、か……」

カズ兄は遠くを見つめる目で私を見た。そして、目を瞑り深呼吸すると、その私に似てない唇を動かした−−

「実はお前は−−」

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