Schuldさんに聞いてみた
著作『TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す ~ヘンダーソン氏の福音を~』オーバーラップ文庫
作者ページ https://mypage.syosetu.com/198781/
「まずはお名前をお願いします」
Schuldと申します。
企画主の肥前先生とは『青雲を駆ける』シリーズが好きだったことで相互フォローになり、Twitter上でお話しする機会を得て本企画に参加する栄誉に浴しました。錚錚たる面子の中で一人だけ「誰やお前」というマイナー具合なので、些か緊張しております。
「書籍化作品までにどんなジャンルの作品を書かれていましたか?」
なろう以前の別名義ではSFが主でした。
海外SF古典的な重くて硬い話でしたね。ハインラインとかアーサー・C・クラークにかぶれていました。今読み返すと悶えて倒れると思います。
同名義ではゾンビ物のポストアポカリプス『青年と犬と、もう一人』ですね。
これはゾンビ映画を見ていて、どうしていつも誰かを助けに行こうとして差し引き0か、むしろちょっとマイナスな結果ばかりなのだろうと思って、じゃあ徹底的に生き残ることだけを考えている利己主義者を書いてやろうと思って始めました。
小説とは違いますが、TRPGのGMを嗜んでいたのでキャンペーンシナリオなども少々。
「デビュー作と、その経緯など。どのような形でデビューが決まりましたか?」
ゾンビ物が完結したあと、「おっしゃ、私もいっちょ流行に乗って転生物でも書いたろか!」と思い立って、『ヘンダーソン氏の福音を』を書きました。たしか二ヶ月ほどかけてで20万文字くらい書き溜めてから一気に投稿しましたね。
折角だから趣味のTRPG要素も突っ込んでやろうと始めると、毎日更新の御利益もあってか意外にも大健闘。日刊二位に載ったことで現在の担当編集様からお声がかかりました。
書籍化かぁ、憧れるなぁとは思っておりましたが、よもや自分がそうなるとは思っていませんでしたね。しかも、新しい仕事が始まる少し前に打診が来るという凄まじいタイミングでした。
「デビュー作を書き始めた時、ぶっちゃけ今みたいな人気がでると思っていました?」
全く。題材がマイナーなのと、私の文章はラノベには向かないと散々言われ続けていたので、感想とか貰えたらいいなくらいの気持ちでした。
あと『ゴブリンスレイヤー』とか『最果てのパラディン』のように、趣味のTRPGを少しでも布教できたらいいなと考えていましたね。
「どんな点を売りにしようと思って書きましたか?」
設定を練ったハイファンタジーにTRPG要素を加え、私の性癖である多種多様な種族のヒロイン。そして通常のRPGではできないような発想を入れて面白くしようという二点ですね。
異形、異種族好きは意外と多いので、節足ヒロインとか出したかったんです。
それと私が参加していた卓は過激派が多かったので、TRPGという遊びはこんなに自由なんだぜ、と理解していただけたらなぁと
「周囲の評価、評判は、その売りと一致しましたか?」
ファンが増えた、という点では一致したと思います。ヒトとは違う別種族の思考をトレースしようとして色々考えた結果、そこが異質すぎて受け付けられないという方もいましたが、受け付けられないくらい濃く描写できたと考えれば満足かなと。
あとは、設定資料集が欲しいと言っていただけたのは設定厨冥利に尽きます。
TRPGやってみたくてルルブ買ってみたよ、という報告が一番の賛辞でしたね。
「普段から、面白いものを書くためにどんな工夫をしていますか?」
出発点と着地点を明確にしておくことです。行き当たりばったりで、途中で起こったイベントで適当に行き先が変わったりすると話がとっちらかってしまうので。
あとは、キャラの種族や立場における思考をキチンとトレースすること。シナリオを魅力的に成立させようと思ったら、キャラが嫌なヤツや没個性的では成立しないので、できるだけ愉快になるよう言動を考えています。
それと、シナリオに合理性があるかどうかを書き終えたあとで寝かせて考えることですかね。
「読書はどれぐらいの頻度で読んでいますか? 月に何冊ぐらい」
小説であれば週に何冊かは必ず。新刊があればそちらを優先しますが、好きな物を読み返すことが多いです。
資料としての本なら、月5~10冊程度でしょうか。歴史書、技術書、あとは偉人の自伝やらが多いです。
「読書量は書く際の面白さに比例すると思いますか?」
創作は発想勝負でもあるため、読めば読むだけ傑作が書けるとは思いません。
しかし、語彙や表現の幅に繋がるので、文章自体の出来映えには関わると考えています。何より頭の中にあるキャラクターを“他人”として動かすため、他人の考えが乗っている本を読んで、自分では思いつかないような発想を取り込める点は重要かと。
登場人物が全員、のクローンでは面白みがないですから。個々人の目的に従って動いているのだと描写するための肥やしとして役に立っていると思います。
「どんな本がお勧めですか?」(影響を受けた本や、参考になる資料など)
『概説西洋法制史』は大学の講義で読み、中世初期から盛期までって良いなぁと思えた一冊です。法、人間が生きる規範は時代の在り方をよく示すため、ヨーロッパ風ファンタジーを書く上での資料としては最適かと思います。そして剣や槍に合戦など、リアリティの足しとして『戦争の世界史(ウィリアム・H. マクニール)』などが参考になりました。
あとは川上稔氏の『終わりのクロニクル』でしょうか。独得の筆致、軽快でウィットに富んだ会話、圧巻の戦闘シーンなど多々影響を受けております。キャラクターが生きている、という小説の見本ですね。
そして何よりTRPGのルールブック! あれほど濃密に世界の設定を煮詰めている書籍は珍しいです。読んでいて「あぁ、私もここで生きてみたい」となる世界に浸れる、旅行のガイドブック的な楽しさがあるのでオススメですよ。設定を練る参考にもなります。
「面白いものを書くために必要な資質って何が考えられますか?」
面白いと感じられる要素は個人によって違うため、読んでいて違和感を与えないかが重要だと考えています。
読書中にキャラの思考が合理性に欠けていたり、設定に矛盾があればそれだけで考えが散って内容に集中できなくなる気質でして。そこを守らないとシナリオが面白くても入り込めないかなと思っています。
守れているのかと問われれば、まぁ、はい……。
「デビュー後の今、デビュー前の自分にアドバイスするとしたら、どんなことを言いますか?」
なろう書籍化はWeb版を流用できるから楽だよ、という知識は全くの誤りなので信用するなよ、とだけ。
「どんな環境で書いていますか?」(自宅か・喫茶店か。また、どのようなハード・ソフトを使用してるか)
基本的に自室にて執筆しています。参考にしている資料の多くが電子化されていないこともあって、必要になった時に外だと取り出せないので。
コロナ前は気晴らしに喫茶店に行くこともありましたが、まだまだ難しそうですね。コメダ珈琲で馬鹿みたいに大きなココアを飲みながら、またキーボードをのんびり叩きたいものです。
作業用PCは既製品のゲーミングPC。資料のタブやらを多重に開いて、意外とメモリを食うソフトを快適に動かすため奮発しました。ソフトはATOKの一太郎で執筆しております。日本語入力する上では、一番使いやすいし機能も小説執筆に向いています。
「どうやってネタを考えているの?」
やはり他の創作に触れることでしょうか。
私ならこうするのだが、という思いつきから設定に膨らませてネタに変えるという作業をしています。
アイデアや話の筋は散歩や買い物の時に湧いてくることが多いので、歩き回りながら纏めています。
「自分の中で小説の書き方の軸は決まってますか?」
TRPGのシナリオを練る時と同じですね。私はシナリオを考えると導入とエンディングが一緒に頭に浮かんでくるので、その間を埋めるようなイベントは何が起こるだろうかというブロック構造的な作り方をしています。
その上で、仮に脱線するとしたら、どこから横道に行くだろうかと考えて、防止するなら話の筋を誘導するNPCやイベントを用意し、エンディングへ自然に行けるようにします。
最終的にキャラクター達の目的を果たし、個性を表現する内容を調整します。大事なのは辿り着くべきエンディングですから。
「読書以外の趣味と、その趣味が作品へ影響している可能性はありますか?」
TRPGですね。シナリオを書いても参加者の考えや嗜好によって行き先が予定から全く変わってしまうのは、作品を書く上で非常に参考になりました。それと自分以外の人間の考え方、好みを濃厚に摂取できるため凄く役立っています。
これは私が思ってた話とちゃう! という着地をすることが間々ありますが、ネタ作りにも最適なので皆様も如何でしょう。
今回は非常に忙しいところ、お願いして書いていただきました
なろう作家でぜひ聞いてみたい作家さんは誰でしょうか?
もしかしたら、感想の声が依頼時の力になる可能性がありますよ。