Mission8 「ピプ子」
どうしたものか……。体力はそんなにない。もうすぐ限界が来るだろう。
人形は、疲れる様子もなく物凄い速度で追ってくる。
さっきの道を真っ直ぐに行けば、魔法陣があったのだが……曲がってしまったしなぁ……。
ふと後ろを振り返った。人形と、その背後に追いかけてきている……
「ひなた君?!」
おいおい、ちょっと待ちたまえ。君は何をしているのかね?
オレを追いかけてきているのはわかるが、その前に人形が追いかけてきているんだ。死ぬ気か?
人形も、後ろを振り返る。
ひなたと目が合った瞬間、速度を落とし包丁をひなたに向け横に振った。
「きゃぁ! ……いたっ!」
ひなたは、左に方向転換して走り出す。包丁の先っぽが右足の太ももにかすった。顔が痛みで歪む。
痛いのを我慢し、立ち止まらず全力疾走で、ひなたは学の隣まで来た。
「ひなた君、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
人形は、にやりと笑い嬉しそうに
「今日ハ、ラッキーダナァ……。獲物ガ、二人ダ……」
アハハハハ! と大声で笑うフランス人形。
血で汚れた包丁を赤い月に向けて掲げて純粋な子供のような笑みを浮かべながら包丁を見つめた。
ギロリ。と、2人を見た。
2人は恐怖に満ちた顔で人形の様子を見ながら、走って逃げている。
「コロシテヤル! コロシテヤル! コロシテヤルゥウウウ!!」
人形は、2人を追いかけてくる。
カタカタカタカタ! という、音を立てて。
「ひなた君がどこから来たのかはわからんが、魔法陣が書かれている場所がある。
その魔法陣は、何故か敵は入って来れない。そこまで諦めず、走るんだ!」
「はい!」
遠回りだが、生き残る道はそれしかない。
公園の近くまで来た。そろそろ魔法陣がある場所に着く。
「ない!?」
魔法陣が……ない。
誰かに消された後がある。一体、誰が……?
くそ、どうすりゃいいんだっ……! どうすれば、この状況を回避できる?
冷静になれ、考えろ。考えるんだ……!!
学君は、立ち止まった。
ここに、魔法陣が書かれていたんだと思う。
今まで見たことの無い、学君の焦った顔。後ろには、人形が走ってきている。
「学君! 学君!!」
学君に声をかけても反応がない。学君を、私が、守らなきゃ……!!
咄嗟に目に入った、折れた丈夫そうな木の枝。
急いで拾い上げ、人形の頭を思いっきり殴った。
「たぁーー!!」
ゴンッ! と鈍い音を立てて、軽い人形は遠くへ吹っ飛んだ。
人形が、ゆっくりと起き上がる。頭は、少し右に曲がっていて頬には傷が出来ている。
「顔……私ノ……顔……! 許サナイ……!! 許サナイ!!!」
学は、はっとして
「ひなた君、すまない。行こう!」
「うんっ」
2人は、また走り出した。
「待テ!! クソアマァァァァアアアア!!!」
人形は、大声を出し、怒り狂い追いかけてくる。
学は、リックサックを前に出し、無造作に手を突っ込んで何かを探している。
「魔法陣が成功したなら、きっと出来るはずだ! どこだ……! ……あった!!」
リックサックから取り出したのは、ブロックメモ用紙と、筆ペン。
「学君、どうしたの?」
「まぁ、見ていたまえ!」
ブロックメモ用紙に、何かを書き始めた。
「簡単なものでも走りながらだから、うまくは書けないが……一時的に時間を稼げれば……!」
出来たのは、簡単に書かれた線が歪んだ魔法陣。
「いきたまえ! 魔物よ!!」
破いて、後ろに投げた。
ひらひらと、舞う紙が、白く光った。
「ナンダ!?」
「おお!」
「な、なに?」
光輝いた後、何か、丸い影。
「ピプーーー!」
ピンク色の丸い、スライムのような何かが紙が無くなった代わりに居た。
ぐじゅっ。人形に、思いっきり叩き斬られた。
半分に破れた2枚の紙が、ひらり、ひらりと落ちた。
一部始終を立ち止まったまま見てた2人。
ブチッ。と何かが切れる音がした。
「……ピプ子ぉぉぉぉおおおお!! うわぁぁぁあああ!!!」
学は、ひなたの持っていた奪い取るように枝を取った。
ゴンッ! ゴスッ! ゴスッ!
「ちくしょう! ちくしょう! よくもピプ子をぉぉぉおおお!!」
ゴンッ! ゴンッ! ズゴンッ!
学は、泣きながら何度も何度も人形を殴る。人形は動かなくなった。
「ま、学君!! もう、もういいから!!」
「っは…………」
人形は、手足がもげて、顔は原型を保っていない状態になっていた。
学は、2枚に破れた紙を拾い、ポケットにしまってから、
ひなたに頭を下げた。
「……ひなた君、怖がらせてしまって申し訳なかった」
「う、うん。大丈夫。それよりも、これ持っていこう」
ひなたが指を指した先には、人形が持っていた包丁。
「……あ、ああ……。それは、ひなた君が持っていてくれ。少し、休もうか……」
「うん。休もう」
2人は、家の影に隠れることにした。
ひなたは体育座りで座った。
学は、立ったままブロックメモ用紙に、同じ魔法陣を書いて投げてみたが、ピプ子は出てこなかった。
学は、ポケットから、破れた紙を取り出した。
少しの間、見つめてから、大きなため息をついた。
ピプ子……よくやった。ゆっくり、おやすみ……。
にしても、路線がズレていってる気がする。早くコレ終わらそう;