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詠え。桜吹雪に。  作者: 楡崎夏芽
3/3

異界から来た男?

朝の風とはいえぬ、生温かい風が崖の上から、吹き降りてくる。崖下の青年は、鳥を追うのをやめ、いぶかしげな眼を向けた。そして、崖の上の青年も、再び、見下ろしていた。

「奇遇だな・・。ちょうど、逢いたいと思っていたところだ・・。」

黄緑色の空が、その背後に広がっている。伸びるにまかせた髪は、風もないのに、四方へなびき、両足もとは、宙に消え入って、何も、見えない。

「どうしたのだ?犀。私に逢えてうれしくないのか?」

消え入るような微笑。相変わらず気持ち悪い。放心したように、陽炎を見上げた犀であったが、彼の唇が、にっと、ゆがむのを見ると、ふっと、目をそらした。このまま、あの赤い唇に、引き込まれていくようだ。すぐ、近くで見た訳でもないのに、半開きになった唇から出た、舌の先と、前歯が、脳裏に焼き付いていた。

「大雅・・。」

陽炎は、大雅の態度が、心地良かった。手にとるように、わかる。彼の様子をからかいながら、みていた。

「大雅・・。」

もう、一度、呼んでみると、彼は、背を向けた。

「奇遇だと言ってるんだ」

「奇遇?俺も、お前には、逢いたいとおもっていた所だ。」

ちらっと、横目でみると、陽炎が頬を染めるのが見えた。思いもよらぬ反応に大雅は、驚いた。

「女じゃないんだから・・。」

思い直し

「そう、お前に用があったのは、一緒にいた女の事だ。逢う予定だったんだ・・。」

陽炎にいう。大雅と陽炎は、対照的である。無論、その容姿も全くと言っていいほど、正反対の物であった。大雅の髪は、黒々と背に。陽炎は、質問に答えず、首をかしげてみせた。灰色に透き通る瞳が、自分を見つめている。心臓を片手で、掴まれたように、ぎゅっと、なって、はっとした。胸が痛むのである。大雅の瞳が痛かった。うすい光に映える親縁の髪が、陽炎には、まぶしかった。

「しらをきるつもりかよ・・。」

大雅の言葉に、陽炎は、現実に引き戻された。柄にもなく、むっとした。

「しらをきってる訳ではない。」

陽炎を子供っぽいと思った。

「初めてだな・・。そういうの。」

「ふ・・。ふん。」

派手に、赤い小袖を、陽炎は、ヒステリックに振った。

「陽炎言えよ・・。さっきまで、一緒だった心菜を何処に置いたんだ?」

「心菜?」

陽炎は、冷静になっていた。

「昨夜の女とは、違うのか・・。」

「昨夜?」

殺気が、大雅の顔をかすめた。

「そうか・・。」

やはり。という表情になり。

「昨夜の事は、おまえが原因か」

陽炎が、予測していたのとは、別な態度をとった。

「ずーっと、おまえの声が響いていた。なあ・・。お前は、何者なんだ?」

一陣の風が、沸き起こった。ぴぴっと、小石が、跳ね上がり、頬をかすめる。

「幽鬼か?」

大雅の灰色の目が細められた。

「それとも?」

頬の血が走っていた。燃える目で、陽炎を見上げている。風が、沸き起こり、犀は、身を守った。

「唐から、来たというのは・・。」

ばう・・。風が吠えた。細めた目の下に舞い降りる陽炎が見える。着地は、猫のように、しなやかで、若々しい。陽炎が大雅の前に降りると、風は消えていた。

「陽炎・・。」


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