神隠し
初投稿です
読みにくいところや誤字脱字があるかもしれませんが、暖かい目で読んでいただけますと幸いです
ある日の朝、不思議なことが起こった。
いつも通り高校に電車で向かっていた俺は、学校の最寄り駅で降りたとき少し違和感を感じた。
なんだかいつもより少し、人数が少ない気がする。
だがまあ、どこかの区間で遅延でも起きたとすれば当然に思える。
なんかあったんだろうな、そう思ってスマホを取り出しながらエスカレーターを登る。
地下から地上部分に上がり、学校がある方向へ進むが、やはり人が少ない。
普段は人を避けることにそれなりに神経を使うのだが、今日は楽々進める。
明らかに空いている。
おかしいなと思って時間を確認するが、時刻は8時手前、いつも通りの時間だ。
なんだか嫌な予感がして、少し早足で駅を出ようとした、あそこには大通りがあるからそれでわかるはずだ。
その日はやけにざわざわとした人の声が聞こえたし、電話をしている人が多かった。
そして駅から飛び出した俺はその光景に唖然とする。
駅前の大通りは一見いつも通りに見えた。
だが、よく見ると中に乗っているであろう人々が1人もいないし、どこの信号がどれほど変わってもどの車も、バスも動こうとしないのだ。
倒れた自転車も散見されるし、何よりここも非常に人が少ない。
いつもなら通りをごった返すほどの通勤者や通学者の群れも、今日は非常にガラガラだ。
ちょうどそのとき、右手から大きな爆発音がした。
反射的に振り返ると、どうやら車同士が衝突して事故が起こったようだった。
そして大体同じあたりからもう一度音がする。
事故が事故を呼んだのかはわからないが、ともかく似たようなことが起こったようだった。
ふと震えがして、右手を見た。
どうやら気づかないうちに鳥肌が立っていたようだった。
俺は嫌な汗をかきながら、学校の方向へ歩き出した。
最初はいつも通りの歩調だったが、数秒後には早足に、また数秒後には走り出していた。
同時に俺はあるクラスメイトに向かって電話をかけた。
普段ならもう学校に着いて談笑しているであろうあいつ、俺の恋人で一番大切なもの。
いきなり走ったから呼吸もぐちゃぐちゃで、涙と汗で顔もぐちゃぐちゃぐちゃになった。
「お掛けになった番号は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため」
機械音声が流れた瞬間、電話を切って、もう一度、あいつにかける。
「お掛けになった番号は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため」
だめだ、もう一度
「お掛けになった番号は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため」
じゃあこいつはどうだ、こいつならスマホ触ってるだろ
「お掛けになった番号は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため」
この時間帯ならバスケ部の朝練は終わってるはず、だったらこいつも
「お掛けになった番号は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため」
スマホを投げ捨てそうになったとき、やっともう学校の目の前についていたことに気がついた。
まだグラウンドにいるはずに野球部も、俺以外の他の生徒も教師もいない。
カバンを捨てて、本気で走る。
昇降口までの坂なんて気にしない、全力で駆け抜けて、靴のまま校舎に入る。
そのままいつも通りのはずなのに、いつもと全く違う階段を駆け上がって、3階に向かう。
11組がある奥の教室まで急いで向かうが、視界の端に映る他の教室には荷物のカバンはあるのに、誰もいない。
おかしい、うそだ、なんで、やめろ
「あかり、いるか!」
11組の教室に着いて、中を見る間もなく、俺は叫んだ。
教室の中を見る。
そこには数個のカバンや食べかけの弁当や、机の上のシャーペンやプリントなど、人がさっきまでいたであろう痕跡はあるが人は1人もいなかった。
20XX年、6月8日水曜日、その日、戦後最悪の事件が起こった。
神隠し、とでも言うのだろうか。
A市の中心地区である中央区を主として人が突如として消えたのである。
正確な人数はわかっていないが、その行方不明者は7万人に上るとされている。
ある地点から一定の距離内、つまるところある大きな『円』の中にいた全ての人が消えたのである。
その中にはA市を代表する企業のビルも入っていたし、多くの学校、そして非常に多くの一軒家やマンションも含まれている。
うちの学校もその一つだった。
また、それに関連した事故も多数起こったし、経済的な被害も計り知れない。
何より、人が消えた理屈が全く何もわからない。
国内外問わず、ありとあらゆる研究機関がこの事件について調査したが、いくら調べたところで、「ある日いきなり多くの人が消えた」という結論にしかならなかった。
前代未聞という文字をこの数日間で何回見ただろう。
うちは父さんがいなくなった。
母さんは友達がごっそりいなくなった俺を気遣ってか、俺の前では一回しか泣かなかった。
当然こんな地方の民話でもないようなことが起こって、市も県も政府も対応は明らかに後手だったし、動き始めるまでもグダグダだった。
こんなにも多くの人がいなくなったのに、人以外は何も変わっていない。
だから余計にそこにいるはずだった人の姿を鮮明にする。
父の部屋のキーボードはもう少し埃を被り始めている。
母はビールは飲まないから冷蔵庫の中のビールも減らない。
父がつまみに買っていたピーナッツの小袋も、いつまでも積み上がったままだ。
落ち着こうと思って水を飲もうとコップの引き出しを開けたら、赤と青の2つのマグカップが目についた。
これはいつも母が朝に父と自分用に緑茶を入れて使っているペアカップだった。
普段ならまだ流し台か乾燥棚に置いてあるはずだった。
でももうしばらく使われてるのを見ていない。
ため息をついた。
うちの学校では生徒の約3割がいなくなった。
これはもう学校に着いていた生徒と登校中だった生徒を合わせた数らしい。
かくゆう俺もどうやらあと一本乗る電車が早かったら消えていたようだった。
正直どう反応していいのかわからない。
みんな、喜んでしまうと、彼らが本当に消えて二度と会えないことが確定してしまうような気がしているのかもしれない。
うちのクラスメイトは40人中19人消えた。
他のクラスよりも朝早くから学校に来る生徒が多くて、みんな勉強熱心、部活熱心だなと感心していたのが馬鹿馬鹿しい。
消えた、消えた、みんな消えた。
消えなかったのはなんなんだろうか。
関西で就職していた姉貴が今日帰ってくる。
「心配やから帰る」
と昨日連絡してきてのことだ。
とりあえず姉を迎えに行かなくてはなのだが、どうにも元気が出なかった。
心にやる気を注ぎ足しても、どこかに大きな穴が空いているみたいで、一向にたまらない。
「瑞希、行くわよ」
母さんが優しく俺に呼びかける。
「……うん」
これ以上母を困らせたくないという最低限の優しさだけが、俺を動かした。
「今日の晩ご飯は何がいい?」
「姉さんが食べたいやつがいい」
「玲は何食べたいっていうかしらね」
「……わかんないや」
「そうねぇ、合流してから決めようかしら」
「うん」
「電車に乗るの、怖い?」
「えっと」
「手、震えてるわ」
「これは、その」
「無理しなくていいのよ」
「だって母さんは……」
「私は何なの」
「……いいよ、大丈夫、もう手を握っててもらうような歳じゃない」
「そう、そうね、じゃあお願い、握らせてちょうだい」
「お願い?」
「お願い」
「母さん、少し寝てもいい」
「いいわよ、私は起きておくから、電車も空いているしl
「ありがとう、着いたら起こしてね」
「ええ、もちろん」




