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第9話 伝説

修行編スタート!

気がつくと、俺は王城の医療棟のベッドに寝かされていた。

 全身が重い。筋肉も骨も悲鳴を上げている。

 けれど、あの日のことは夢じゃなかった。

 デスリーパーとの死闘、アルトリアの参戦、そして騎士団の到着。

 ふと横を見ると、エルゼが椅子の上でうとうとしていた。

 そのさらに向こう、扉の前には一人の騎士が静かに立っている。

 白銀の鎧。鋭い視線。

 俺が目を覚ましたのに気づくと、その騎士は軽く頭を下げた。

「ご無事で何よりです、カイト殿。

 副団長は、あなたの覚醒に深く関わる存在だと伺っています」

「えっと……あなたは?」

「白銀騎士団・第七隊隊長、アーヴィングと申します」

 丁寧だが、声には戦士特有の硬さがある。

「一つ……聞きたいことがあるんだけど」

「なんでしょう」

「皆、初めて俺を見た時……“弟子”って呼んでたよな?

 なんでだ? 俺、アルトリアさんとは最近出会ったばっかで……」

 アーヴィングの表情がわずかに和らいだ。

「それには理由があります」

 そう言って、彼は静かに語り始めた。

白銀騎士団には、古くから伝わる“ある伝承”があるという。

『副団長アルトリア・グランは、生涯に一度だけ弟子を取る』

 それは厳しい彼女を知る者からすれば、“絶対にあり得ない理想論”だった。

 彼女は幼い頃から王国最強と呼ばれ、剣を誰にも預けない孤高の剣士だったからだ。

『だが、その弟子は“世界を救う鍵”となる』

 伝承はそう続く。

 しかし、誰も本気にしていなかった。

 英雄譚の作者が勝手に付け足した話だろうと、茶会の笑い話にされる程度だった。

「……それが、現実になった」

 アーヴィングの声に、混じっていたのは畏怖だった。

「副団長が、あなたを抱き上げた瞬間……

 我々は理解しました。

 “あの副団長が誰かを守るために剣を振るった”と」

 俺は黙り込んだ。

 あの戦いで、アルトリアが俺を庇ってくれたのは……

 伝承なんて関係なく、ただの義務感でもなく。

 本気で、俺を救おうとしてくれた。

「もちろん、彼女自身は伝承など気にしていないでしょう。ですが……」

 アーヴィングは俺の顔をまっすぐ見た。

「あなたが副団長の“弟子”であることは、

 我々にとって揺るぎない真実なのです」

 胸が熱くなった。

 ――そんな言葉を、俺は言われる資格があるか?

 まだ覚醒も完全じゃない。

 ガチの強敵にも負けて、足を引っ張ったばかりだ。

「……俺なんかが、そんな存在じゃないよ」

 ぽつりと弱音を吐いた瞬間、部屋の扉が静かに開いた。

「その“俺なんか”という言い方、今すぐやめろ」

 聞き慣れた声。

 振り返ると、アルトリアが立っていた。

 怪我ひとつない白銀の姿で。

「副団長!」

「ようやく目を覚ましたか、カイト」

 彼はゆっくりと俺のベッドの傍に歩いてきた。

 視線は鋭いのに、どこか安堵が滲んでいた。

「聞いていたぞ。アーヴィング、余計なことまで話したな?」

「い、いえ! 必要なことのみを伝えただけで……!」

 アーヴィングが慌てて背筋を伸ばす。

 アルトリアは小さくため息をついた。

「カイト、勘違いするな。

 私は伝承に従って弟子を選んだわけではない。

 “お前が自分で掴んだ縁”だ」

「でも……俺はまだ弱くて……」

「だからどうした」

 アルトリアは身を屈め、俺の額に指を突きつけた。

「弱いなら強くなればいい。

 私はそうしてきた。

 お前もそうすればいい。

 たとえ世界の誰も信じなくても――」

 彼女は一瞬、柔らかく微笑んだ。

「私が、お前を強くしてやる」

 胸の奥が、熱く燃え上がる。

 そんなやり取りを見ていたアーヴィングは、笑みをこらえきれずこう言った。

「カイト殿。

 あなたがどれほど弱かろうが、

 どれほど未熟だろうが、

 “副団長が選んだ人間”だと分かった瞬間――

 我々はあなたを信じる理由を得るのです」

 アルトリアが軽く咳払いする。

「長居はするな。カイトはまだ療養中だ。

 ……私も少し話したいことがある」

「はっ。失礼いたします!」

 アーヴィングは敬礼し部屋を出ていった。

 扉が閉まり、静けさが戻る。

 アルトリアは椅子を引き寄せ、俺の隣に座った。

「さて。カイト」

「うん?」

「次は――“本格的な修行”だ。

 覚悟しておけ」

 その気迫に、思わず笑ってしまった。

「……よろしくお願いします、師匠」

 アルトリアの目が、ふっと優しくなる。

「うむ。

 しっかり食って寝ろ。強くなるにはまず体だ」

 その瞬間、俺は悟った。

 ――この人の弟子になれたことは、俺の“無限の可能性”の始まりなのかもしれない。

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