第8話最強vs最恐
世界樹の頂上に、轟くような衝撃音が響き渡った。
アルトリア・グランの大剣が、デスリーパーの鎌と激突する。
白銀と漆黒。光と闇。魂と死。
世界の両極がぶつかり合ったような激闘だった。
『白銀の騎士よ、その剣――我が計算を超えている』
「計算など、戦場では何の意味もない。
“守りたい者のために振るう剣”に、限界などない」
アルトリアは一歩も引かない。
その気配は凛として澄みきっていた。
対するデスリーパーの存在は、空気を凍りつかせるほどの威圧感を放っている。
だが――アルトリアが一歩踏み込むだけで、空間が震える。
「――はあァッ!!」
白銀の剣撃が弧を描き、巨大な衝撃波が漆黒の甲冑を抉る。
デスリーパーは後方に滑りながらも、即座に体勢を立て直した。
『ほう。今の一撃、我の“魂殻”を傷つけたのは……二百年ぶりか』
「二百年? それは光栄だな」
アルトリアの口元にわずかな笑みが浮かぶ。
「だが、私にはどうでもいい数字だ。
私はただ――弟子を守るために、お前を斬るだけ」
その言葉に、胸の奥で何かが熱くなった。
俺はまだ意識の端で彼女の背中を見つめていた。
アルトリアは風のような動きで駆け出し、再び剣が閃く。
その度に空気が爆ぜ、世界樹の枝が音を立てて揺れる。
デスリーパーも負けじと鎌を振るい、次々と死の衝撃波を放った。
しかし――
「遅い」
アルトリアはその全てを、最小限の動きで避け切った。
まるで先読みしているように。
死の一撃を風がすり抜けるようにかわし、次の瞬間にはデスリーパーの懐に踏み込んでいる。
『この人間……異常だ。
だが、それが良い』
デスリーパーの口調から、わずかな“愉しみ”が滲む。
『力を振るう相手がいなかった。
戦場は久しい。剣聖――遊んでもらおうか』
「遊ぶつもりはない。殺すつもりで来ている」
アルトリアは絶対に折れない声で言い放つ。
次の一瞬、二人の姿が消えた。
視界から完全に消えた。
音も遅れてついてくる。
もう人間の戦闘速度ではない。
白と黒の閃光が世界樹の上を縦横無尽に走り――
そのたびに巨大な枝が吹き飛び、樹皮が裂け、地上に落ちる衝撃で地面が揺れた。
たった二人の戦いで“戦争規模”の破壊。
「アルトリア様……すげぇ……」
自分の声が掠れた。
痛みは酷いが、彼女の戦いを見逃すわけにはいかなかった。
十分後。
戦場はすでに荒野のようだった。
アルトリアは汗一つかかず、まっすぐデスリーパーを見据えている。
一方、デスリーパーの鎧には無数の裂傷が刻まれ、漆黒の霧が漏れ始めていた。
『……素晴らしい。人間にしては、いや――
我が見てきた生命体の中でも上位だ』
「褒め言葉として受け取っておこう」
アルトリアが剣を構え直す。
『だが――そろそろ良いか?』
「何がだ」
デスリーパーの赤い瞳がぎらりと光る。
『この世界樹の根本。
“封印”が揺らいでいる。
我の目的は貴様らを殺すことではない』
アルトリアの瞳がわずかに細められた。
「封印……?」
『ああ。古代魔王の封印だ。
貴様らの弟子――カイト・アサヒナ、だったか?
奴の覚醒が近いゆえに、封印が反応している』
俺の覚醒……?
デスリーパーは俺を狙っていたのか。
『今日の目的は“調律”だ。この世界を壊す前のな』
その瞬間、アルトリアが踏み込み――
「逃すか!!」
白銀の剣を頭上から振り降ろした。
だが、デスリーパーの周りに黒い霧が渦を巻く。
『――遅い』
霧が爆ぜた。
その衝撃にアルトリアですら一歩退く。
デスリーパーは空中に浮かび、鎌を肩に担ぐ。
『面白い戦いだった。
だが、今日の本命は“観察”だ。
カイト・アサヒナが覚醒を果たした時――我は再び来る』
「待て!」
アルトリアが跳躍し剣を放つが、刃は黒霧に飲まれて虚空を切った。
『次は殺し合おう、人間。
我を傷つけたこと……誇るがいい』
そのまま黒い霧は霧散し、デスリーパーの気配が完全に消えた。
静寂が世界樹に戻った。
だが、それは束の間だった。
「アルトリア!」「副団長!!」
空から、白銀の装備をまとった騎士たちが次々に飛来してきた。
彼らは王国最強部隊――
《白銀騎士団》。
団員たちは荒れ果てた戦場を見て凍りついた。
「な、何が……こんな……」
「死神の気配が残っている。
本当に戦ったのですか……?」
アルトリアは静かに頷く。
「遅かったな、皆」
「副団長……ご無事で何よりです!」
団員の一人が慌てて俺のもとへ駆け寄る。
「アルトリア様! この男は……?」
「私の弟子だ。手当てを急げ。
死にはしないが、魂に傷を負っている」
その場の全員が驚愕した。
「……副団長に弟子!?」「存在しないと思っていた伝説が!」
アルトリアは少しだけ苦笑した。
「説明は後だ。まずは撤収するぞ。
――デスリーパーが戻る前に」
彼女は俺を抱き上げ、そっと腕に乗せた。
「よく耐えたな、カイト。
お前が時間を稼がなければ、私は間に合わなかった」
俺はかすれた声で言った。
「……すみません。倒せなくて……」
「バカ者。未完成のまま死ななかっただけで十分だ。
これから私が鍛える。逃がさんぞ?」
その声音は優しく、どこか嬉しそうだった。
意識が落ちる直前、俺は思った。
――今日、死なずに済んだのは間違いなくこの人のおかげだ。
そして……次は負けない。
視界が暗転し、俺は深い眠りに落ちた。
終わりましたね!デススリーパー編




