第7話 ギリギリ
すいません1話抜けてました。
眩い光とともにスキル《限界突破》の封印が外れた瞬間、俺の全身を何かが駆け抜けた。血が沸騰し、肺が焼け、脳が灼けるような感覚。それでも、不思議と痛みはない。ただ――世界がくっきりと見えた。
デスリーパーが振り下ろした鎌の軌跡。
普通なら一瞬で肉体も魂も断ち切られるはずの斬撃を……俺は見た。
「……見える」
エルゼが息を呑んだ。
「カイト様が……デスリーパーの攻撃を……!」
デスリーパーの赤い眼光が微かに揺れる。
驚いた? お前が?
『ほう……貴様、限界を“超えかけている”な』
「超えるさ。この世界で最強になるのは俺だ」
地面を踏み込み、俺は瞬時に距離を詰めた。
世界樹の枝の上、朝の光を裂いて跳ぶ。
――遅い。
そう感じた。
今の俺には、デスリーパーの動きが完全に追える。
すれ違いざま、渾身の斬撃を叩き込む。
「はあああああッ!!」
漆黒の鎧に火花が散り、デスリーパーが一歩たじろぐ。
『……人間の斬撃で、我に傷……だと?』
「驚いてくれて光栄だな!」
続けざまに三連斬。
動きが止まらない、止められない。
まるで全身が軽く、力が無尽蔵に湧き出てくるようだった。
――だが。
その途中で、視界の端に“ノイズ”が走った。
胸の奥が、ズキ、と痛む。
……ッな、んだ……?
ステータス画面が自動で開く。
《限界突破(未完全発動)
副作用:魂逼迫(中)》
「……ちょっ、ま……」
息が荒くなる。
さっきまで見えていたデスリーパーの動きが……急に、重なり始めた。
スローモーションじゃなく――速すぎて追えない。
デスリーパーの声が、真横から聞こえた。
『覚醒は“揃わねば”完成しない。
その半端な力で、我に傷をつけたことは褒めてやろう』
振り返る暇はなかった。
「……っ!」
魂を削る斬撃が、俺の胸をえぐった。
「が……ああああああっ!!」
視界が白く弾ける。
空気が逆流したみたいに肺から呼吸が奪われる。
膝が折れ、そのまま世界樹の枝に倒れ込んだ。
「カイト様ぁあああ!!」
エルゼの叫びが遠い。
血が、止まらない。
胸の奥――いや、魂そのものが“裂けている”。
立ち上がれない。
ここまでか……?
『終わりだ。可能性の勇者よ。
貴様は未完成のまま死ぬ』
デスリーパーが鎌を構える。
黒い霧が世界樹の枝を枯らしながら迫る。
もう……動けない。
そのとき――
空が、白銀に裂けた。
「――そこまでだ、死神」
冷たい声が頭上から響いた。
俺の視界に、白いマントが舞い降りる。
世界樹の枝に降り立ったのは――
王国最強の騎士、〈白銀の守護者〉アルトリア・グラン。
陽光を受けて煌めく白銀の大剣。
彼女は鎧を鳴らし、デスリーパーに向けて剣を構えた。
風が止まり、世界が切り替わる。
『ほう……この星に、まだそんな魂が残っていたか』
「カイトをよくも……。
死神如きが、我が弟子に手を出すとは」
弟子……?
ぼろぼろの意識で、俺は彼女の背中を見つめる。
「安心しろ、カイト。ここからは私がやる。
お前はまだ死なせん。――まだ未熟だ」
白銀の剣が閃く。
圧倒的な気配が爆ぜ、デスリーパーが初めて後退した。
『面白い。ならば――世界の運命を賭けようか、騎士』
「望むところだ」
最強と最強が、世界樹の上で激突する。
俺は血の中で意識を手放しながら――
その背中を、ただ見つめることしかできなかった。




