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第25話 殺意の森・第三層《渦層》へ

断界獅子が沈黙した後の森は、不気味なほど静かだった。

風が止まり、鳥の声も消えた。

まるで、大地が息を潜めているようだった。

アルトリアは倒れた断界獅子を一瞥し、すぐに歩き出した。

「カイト、来い。第三層へ入るぞ」

カイトは息を整えながら頷いた。

「……ああ。まだいける」

「いけるかどうかではない。進むしかない」

アルトリアの声は冷たいが、それが逆に頼もしい。

二人は、断界獅子が守っていた巨大な裂け目へ向かう。

地面が円形に抉れ、その中心に黒い“渦”が渦巻いていた。

――ゴウゥ……ゴウウゥ……

風のようでいて風ではない。

呼吸のようでいて呼吸ではない。

吸い込むように動く“黒い空間”。

「これが……第三層の入り口か?」

「そうだ。“感情を喰う渦”だ。

 弱者は近づいただけで正気を失う。」

カイトは足を止めた。

胸にざわりと不安が生まれる。

(くる……なにか……心の奥に触れてくるような……)

「カイト、気を張れ。

 この層は、殺意ではなく“精神”が試される」

アルトリアの声が、微かに震えたように聞こえた。

気のせいかもしれないが――

第三層の気配は、それほど異質だった。

渦の中心へ一歩踏み込んだ瞬間。

――ズワァァァァァッ!!

風景が一変した。

森は消え、暗い霧と、浮遊する黒い球体が無数に漂う空間。

地上と空の境界が消えている。

「ここ……どこだ……?」

「第三層《渦層》だ。

 気を抜くな。敵はもう――こちらを“視ている”。」

「敵……?」

その瞬間――

闇の中に、無数の“目”が開いた。

ぎょろり、と

ぎょろり、と

あらゆる角度から、カイトを睨みつける。

(う……ッ!)

それだけで、呼吸が乱れた。

心臓を握られたような圧迫感。

アルトリアが後ろから肩を掴む。

「耐えろ、カイト。

 これは“精神捕食”だ。意識を落とされるぞ」

「こ、これが……第三層……!」

「まだ入口だ。ここからが本番だ」

アルトリアは剣を抜き、静かに構えた。

次の瞬間――

「来るぞ」

暗闇が裂け、巨大な“影の手”が襲い掛かってきた。

――バシュッ!!

アルトリアの剣が、手を瞬時に切り裂く。

だが影は霧のようにすぐ再生した。

「物理が効かねぇのか!?」

「影だけはな。

 本体を見つけねば終わらない」

アルトリアは冷静に足を滑らせながら、影の群れの間を駆け抜ける。

「カイト、落ち着け。

 第三層は“恐怖を強制的に肥大化させる”。

 お前の心の弱点を突いてくるぞ」

「弱点……?」

胸の奥に、ずるりと嫌な気配が生まれる。

――また負ける。

――みんなを守れない。

――自分は役立たずのまま。

暗い言葉が、じわりと心に侵食してくる。

「く……ッ!」

足が止まる。

アルトリアが振り返り、鋭い声を飛ばす。

「カイト! 立て!! “幻”に飲まれるな!!」

「幻……?」

「全て、お前の心が生んだ影だ!

 殺意の森は“劇物”だ。

 力がある者でも一瞬で潰される」

「俺の……心……」

その時、暗闇の奥で巨大な影が動いた。

――ズズゥ……

まるで“影そのものが獣になった”ような、異形の気配。

影の巨体が姿を現す。

四足獣のようなシルエットだが、目が無数に光り、

身体は煙のように揺れている。

『■■■■■■■■──』

声にならない音が空間を震わせる。

アルトリアが低く呟く。

「第三層の守護者――

喰影獣シャドウデス〟だ」

「……でけぇ……!」

断界獅子よりも圧倒的に“気味が悪い”。

「カイト、私が前に出る。

 お前は――影に触れるな。即死する」

「わ、分かった!」

アルトリアが一歩前へ出る。

剣を構える背中から、

静かだが圧倒的な威圧が広がる。

「殺意の森……第三層……

 ここからが“本物”だ」

喰影獣が吼えた。

そしてアルトリアも剣を振り上げ――

「行くぞ、カイト。

 ここで――お前は一つ、覚醒条件を満たす」

カイトは息を呑む。

「何の条件だ……!」

アルトリアが答える。

「“恐怖の中で、逃げずに立ち続けること”。

 殺意の森・第三層の必須条件だ」

カイトは震える足を無理やり踏みしめ、

喰影獣を見つめた。

(逃げない……ここで逃げたら……俺は……何も変われない……!)

「――立つぞ……絶対に!!」

喰影獣が襲いかかる。

アルトリアが迎え撃つ。

第三層《渦層》の地獄が、ついに幕を開けた。

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