第21話 断界獅子
これから1日1話を目安に投稿しますが、来週火曜日からお休みしますがストックを少し貯めてあるので最初の方は投稿できると思います!
森の奥から響いた咆哮は、“音”ではなく“圧”だった。
空気が破裂し、木々がざわりと震え、獣たちが一斉に逃げていく。
その衝撃だけでカイトの膝がわずかに折れた。
「っ……な、なんだ今の……!」
「落ち着け、カイト」
アルトリアは風に揺れた前髪を押さえながら、鋭い視線で森の奥を睨む。
その横顔は微動だにせず、ただ状況だけを正確に読み取っていた。
「今のは……この森の“第二層の守護獣”だ。
名を――断界獅子」
「守護獣……?」
「この森に入った侵入者を“層ごと滅ぼす”獣だ。
咆哮だけで大地が割れることも珍しくない」
「大地が……割れる……?」
「現実に起きているだろう。見ろ」
彼女が顎で示す先、地面には亀裂が走り、木の根が剥き出しになっていた。
咆哮の余波だけでこれだ。
――ズズン。
ズン……ズン……。
重低音の足音が、森の奥から響きはじめた。
木々の隙間の暗闇が“揺れて”見える。
それだけで全身が拒絶反応を起こすほどの威圧感だった。
「カイト。後ろへ下がれ」
「で、でも俺も――」
「まだ無理だ。
今のあれに近づけば、心臓が先に止まる」
言われた瞬間、カイトの喉がひとりでに鳴った。
不安からじゃない。
断界獅子の“存在そのもの”が、心臓を圧迫している感覚だった。
そのとき――森の奥が、爆ぜた。
木々が跳ね上がり、枝が弾幕のように飛び散る。
土煙の向こうから、白銀の巨影が姿を現した。
太い四肢。
雷のように光る黒紋。
黄金の眼。
そして、呼吸だけで森が揺れる気配。
「あれが……断界獅子……」
「近くで見ると圧は段違いだな。
だが――来るぞ」
獅子がゆっくりと首を上げ、二人を見据えた。
目が合った瞬間。
心臓が掴まれたような感覚がカイトを襲った。
「っ……!」
「顔色が悪いな。言っただろう、まだ耐性が足りん。
だから今は――後ろで見てろ」
アルトリアは静かに剣を引き抜いた。
殺気も焦りもない。ただ研ぎ澄まされた“戦うための呼吸”だけ。
断界獅子が吠えた。
「――GRRAAAAAAAAAOOOOH!!」
爆風。
地面が波打ち、木々がドミノ倒しのように折れていく。
空気が押し潰され、耳鳴りが世界を覆う。
「カイト、捕まれ!」
アルトリアが腕を掴むと、二人は弾かれるように横へ跳躍した。
直後、二人が立っていた場所の地面が、咆哮だけで深く抉れた。
「……これが、第二層……」
「まだ入口だぞ。
立て、カイト。見届けろ」
断界獅子が地を蹴り、巨体とは思えない速度で踏み込んでくる。
地面が砕け、肉薄する白銀の獣。
「アルトリア……!」
「大丈夫だ。
私は――副団長だ」
その言葉とともに、アルトリアの姿が消えた。
風が裂ける音。
直後、断界獅子の脚に深い斬撃が走り、巨体が弾き飛んだ。
見えない。
速すぎて、まったく見えない。
「な……にが……起きて……」
「お前が、いつか自分の目で追えるようになればいい」
アルトリアは獅子と向き合いながら、わずかに笑った。
「それが――修行だ、カイト」
断界獅子が怒り狂い、大地を砕きながら突進する。
猛り狂う災害の塊が迫る。
アルトリアは剣を構え、静かに言った。
「来い。相手をしてやる」
風が止まる。
世界が静止したような一瞬。
次の瞬間――
衝撃音が森を割った。
白銀の閃光が走り、断界獅子が大きく後方へ吹き飛んだ。
大地が抉れ、木々が裂ける。
カイトはその光景を見て――
「……強すぎる……」
ただ、その一言しか出なかった。
アルトリアは剣を下げず、淡々とつぶやいた。
「ここからが本番だ。
カイト――目を離すな」




