第19話 赤い影
森の奥に潜んでいた“赤い影”が霧散してから一時間後。
森の空気はまだ重く、どこか張り詰めたままだった。
アルトリアは歩みを止め、鋭い視線で周囲を一周確認する。
「……ここならいい。続けるぞ、カイト」
「続けるって……今のが“ウォーミングアップ”扱いなのかよ……」
「当然だ。あれは“観察”が目的だ。
次は──殺しに来る」
「……っ」
カイトは息を飲む。
だが、逃げるという選択肢はもう完全に消えていた。
「副団長……俺、覚醒条件のこと、ちゃんと知っときたい」
「ふむ?」
アルトリアは少しだけ表情をやわらげた。
「“覚醒条件は百を超える”……お前が最初に口にした言葉だな」
「ああ。ステータスにも断片的に書かれてる。でも、全部はわからない」
「無理もない。“覚醒条件”は段階ごとに封印されている。
今、解放されているのは……そのうちの【十】だ」
「十……?」
「その十をすべて満たせば、お前は“第一段階”に到達する。
赤い影と互角に戦えるレベルになるだろう」
「互角って……今より相当強くならないと無理じゃん!」
「だから修行するのだ」
アルトリアは剣を地面に突き刺し、手を組んでカイトを見る。
解放されている覚醒条件(第一段階の10項目)
戦闘状態で心拍を意図的に調整する
恐怖の克服(魔族を前にして冷静を維持)
魔力循環の安定
外部魔力の感知
“敵意”の察知
身体強化の持続時間10倍
極限集中の維持(10秒)
痛覚制御
反射速度の限界突破
アルトリアからの“承認”
「“承認”って……最後だけなんかズルくないか?」
「ふふ……簡単に承認はしないぞ?
私は副団長だ。相応しくなければ認めぬ」
「やっぱズルいな!? それ!」
軽口を交わしたが、緊張はすぐに戻った。
「さて、まずは【外部魔力の感知】と【敵意の察知】だ。
追跡者──赤い影の対処にはこの二つが必須になる」
「どうやってやるんだ?」
「簡単だ。──死なない程度に、私が殺意を向ける」
「いや簡単じゃないよね!?!?」
悲鳴を上げる暇すら与えず、
アルトリアの瞳が光った。
目の色が変わる。
ゆらめく蒼の中に、刃のような殺意が宿る。
(……っ!!!)
カイトの背中を汗が流れた。
目の前のアルトリアが、
たった一瞬で“魔族より恐ろしい敵”に変わった。
「感じろ……カイト。
これはお前を殺す敵の“本気”だ」
「ひっ……!」
「逃げるな。見ろ。
殺意は“空気の揺れ”として存在する。
見えなくても、感じられる」
アルトリアの姿が、ふっと霞んだ。




