17話 牙の実践
アルトリアの過酷な修行が始まって三日。
カイトの体は悲鳴を上げていたが、剣の軌道は明らかに変わり、無駄な動きは削ぎ落ちていた。
「まだ動けるか?」
アルトリアの問いに、カイトは荒い息のままうなずく。
「……やる。まだやれる!」
アルトリアは薄く笑う。
「いいだろう。今日は訓練場ではなく、“外”でやる」
「外……? 本気の実戦ってこと?」
「そうだ。
牙は“狩り”の中でこそ研がれる。
気を抜くな。手加減はしない」
言うと、彼女は森の方へ歩き出す。
カイトも慌てて後を追った。
森に入ると、空気が変わった。
風は弱く、鳥の声も少ない。
静かすぎる。
「アルトリア……何かおかしくないか?」
「気づいたか。
普通ならこの時間、鳥や獣の気配がもっとある」
アルトリアは草を指先で触れ、地面に跡を見つける。
「……足跡が乱れている。逃げた跡だ」
「え、逃げた?」
「そう。何か“脅威”からな。
──カイト、武器を抜け」
カイトは剣を構えた。
そのとき――。
ズズッ……グルルル……
藪が揺れた。
低い唸り声が、森にこだまする。
「来るぞ、カイト。
“牙”の初陣だ」
飛び出してきたのは、黒い狼だった。
ただの狼ではない。
目が赤く濁り、体が異様に膨らんでいる。
「こいつ……魔獣化してる!」
「そうだ。森の異変はこいつらが原因だろう。倒すぞ!」
アルトリアが踏み込むより先に、狼がカイトへ飛び掛かった。
「くっ……来いッ!」
カイトは横に跳び、剣で受け流す──が。
「重い……!」
今までの獣とは比べものにならない力が腕を痺れさせる。
「カイト! 力で受けるな、流せと言っただろ!」
「わかってる……けど!」
狼が二撃目を放つ。
カイトは肩に力が入りそうになるのを必死に抑え、アルトリアに教わった通り、剣を“通す”ように動かす。
──スッ。
狼の爪が軌道を外れ、カイトの横をかすめた。
「……できたッ!」
「まだだ! 一気に距離を詰めろ!」
カイトは地を蹴った。
狼の懐に飛び込み、胴を狙う。
「うおおおおッ!」
剣が狼の脇腹を切り裂く。
黒い血が飛び散り、魔獣は叫び声をあげて倒れこんだ。
「……はぁ、はぁ……やった、のか?」
剣先が震える。
だが確かに、倒せた。
アルトリアが傍に歩いてくる。
「……ふっ。悪くない。
初陣で魔獣化した狼を仕留めたなら上出来だ」
「マジで……?!」
「ただし、これは始まりにすぎない」
アルトリアの表情が険しくなる。
「魔獣化は自然では起きない。
“誰か”が仕掛けている」
「……誰か?」
森の奥から、ひゅう、と冷たい風が吹き抜けた。
その奥で、さらに巨大な影がこちらを見ている。
赤い瞳が、ゆっくりと光った。
「カイト、構えろ。
次は……あれだ」
森の異変は、まだ終わらない。
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