第10話地獄の修行
あと3話だけストックあるので、すぐ投稿します。
意識が戻ったとき、俺は柔らかな草の感触を背中に感じていた。どれほど眠っていたのかはわからない。ただ、痛みだけが確かに俺の“生存”を証明していた。
「やっと目を覚ましたか、カイト」
低く落ち着いた声が俺の耳に届いた。その声だけで、全身に再び戦場の緊張が走る。あのデスリーパーとの死闘——敗北。あの瞬間、俺を救ったたった一人の騎士。
目を向けると、黒銀の鎧を纏い、一本の長剣を背負った男が立っていた。
アルトリア。
世界最強と謳われる騎士。9話で俺を背負って戦い、死の淵から救った人物。
その彼が、静かに俺を見下ろしていた。
「俺を……助けてくれたのか」
「助けざるを得なかっただけだ。弟子を死なせる師は愚かだからな」
そこで俺は気づく。
……弟子? 俺、こいつに弟子入りした覚えなんて一度も——
「なあ、なんで俺がお前の弟子ってことになってんだ?」
無意識の問いに、アルトリアはわずかに目を細めた。
「昔な。女神がこう言ったんだ。
“無限の可能性を持つ者が現れる。その者が現れたとき、お前はその者を鍛えよ” と」
女神——俺を異世界に呼んだ張本人。
「その時の条件がひとつだけあった。
“お前がその者に手を伸ばした瞬間、その者はお前の弟子になる” とな」
「手を伸ばした瞬間……って、あの戦いの時?」
「そうだ。戦場でお前を抱えて跳び、デスリーパーに斬りかかった瞬間——。
女神の結界が発動し、お前は正式に私の弟子となった。
……拒否権はない」
「なんだその強制ルール!? 俺の意思どこ行った!」
「女神の定めた契約だ。私だって不本意だ」
「不本意なのかよ!」
「ああ。私は弟子をとる気など一切なかった。面倒だからな」
こいつ……!
でも、その無愛想な言い方とは裏腹に、あの死闘で見せた背中は確かに俺を守ってくれた。
アルトリアは空を見上げ、ぼそっと呟いた。
「……だが、見捨てるほど薄情でもない」
少しだけ、胸が熱くなった。
「さて、目覚めたなら立て。これより修行を始める。地獄だ。覚悟しろ」
「始めるって……今!? 俺まだボロボロなんだが!」
「修行に万全を求める奴は弱いままだ。立て、カイト」
アルトリアの声に、なぜか逆らえなかった。
俺はよろよろと立ち上がり——次の瞬間。
世界が揺れた。
まず、お前の弱点を言う。
——お前は弱すぎる」
「それ言われなくても分かってるよ!」
「違う。弱いのは、肉体でもスキルでもない。
“心” だ」
アルトリアは一本の木刀を投げてきた。反射で受け止めた瞬間、腕が痺れる。
「まず一つ。お前は“最強になりたい”と言いながら、死を恐れすぎている。
本能がブレーキをかけている限り、本当の力は出ない」
そう言うと、アルトリアは木刀を構えた。
「俺は……死にたくないからな」
「違う。死にたくないのではなく、痛いのが嫌なだけだ」
「ぐっ……!」
図星だった。
アルトリアは木刀を振り上げ、無造作に俺へ向け——
瞬間、木刀が目の前から消えた。
いや、違う。
速すぎて見えなかったんだ。
俺が気づいた時には、喉元に木刀が添えられていた。
「この程度の速度も見えないようでは、生きてデスリーパーに再戦などできん」
「こ……れで“この程度”……?」
「まだ構えてすらいない」
化け物かこいつ。
「さあ、“感覚” を鍛える。お前が倒れるまで攻撃する。
防げなくてもいい。ただ、どれだけ速度を目で追えるかだ」
「どれだけって……」
「死ぬまでやれ」
「過激すぎるだろ!!」
「安心しろ。死ぬ前には回復魔法をかけてやる」
「いやそれ死ぬ前提——」
反論する暇はなかった。
風が裂けた。
地獄だった。
避ける
避けられない
痛い
また痛い
気づいたら倒れて
倒れたら引きずり起こされ
殴られ
斬られ(木刀だけど)
蹴り飛ばされ
気絶したら回復され
終わりがない。
これが地獄か。
いや、これが——アルトリアの修行か。
「はぁ……はぁ……お前……マジで……人間か……?」
「聞いてどうする。私は人間だ。私は昔、魔王軍の四天王と素手で戦った」
「素手って何!?」
「剣を持つ時間がなかっただけだ」
「理由が意味わからねえ!」
アルトリアは続ける。
「……魔王について教えてやろう」
空気が、変わる。
「魔王は——“時間を喰らう” 」
「時間……?」
「ああ。魔王は世界の寿命を喰らうことで存在している。
魔王が健在である限り、この世界の寿命は削られ続ける。
魔族が異常な速度で復活するのもそのせいだ」
「じゃあ……デスリーパーも?」
「魔王の“影”だ。奴は魔王の力を受けて変質した。
本来のデスリーパーなら、お前でも勝てた」
「つまり……あいつは、魔王の力を持ってるってことか」
「ああ。そして——お前が最終的に倒さなければならない存在でもある」
重い。
だけど、逃げる気はなかった。
「だったら……もっと強くなりたい。
俺は……負けたくない!」
「ならば立て。修行はまだ始まってすらいない」
「はじ……まってない……?」
「今までは準備運動だ」
おいふざけんなよ。
「次は、“殺気” の制御だ」
アルトリアは目を閉じ、静かに息を吐いた。
その瞬間——
世界が赤く染まった。
足がすくむ。呼吸ができない。心臓が潰れるほど圧迫される。
「これが……アルトリアの……殺気……?」
「耐えろ。耐えねば、デスリーパーの足元にも及ばん」
「こんなの……化け物じゃ……!」
「なら化け物になれ。
お前の特性 “無限の可能性” は、化け物にだって進化できるんだろう?」
その言葉が、脳に焼き付き、体を奮い立たせる。
——そうだ。
俺の特性は、無限の可能性。
可能性に限界はない。
「やってやるよ……アルトリア……!」
「その意気だ、弟子よ」
地獄はまだまだ続く。
だが、この地獄の先に——
デスリーパーへの勝利がある。
魔王を倒す力がある。
そして——この世界を救う“最強”がある。
俺は木刀を構えた。
「アルトリア——続けてくれ!」
「よし。では地獄の二周目だ」
「二周目!? 地獄に周回要素なんてあるのか!!」
俺の悲鳴が森に響き、朝日が昇り始めた。
こうして、
俺の“無限の可能性”を磨く地獄の修行は幕を開けた。




