表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/28

第10話地獄の修行

あと3話だけストックあるので、すぐ投稿します。

意識が戻ったとき、俺は柔らかな草の感触を背中に感じていた。どれほど眠っていたのかはわからない。ただ、痛みだけが確かに俺の“生存”を証明していた。

「やっと目を覚ましたか、カイト」

 低く落ち着いた声が俺の耳に届いた。その声だけで、全身に再び戦場の緊張が走る。あのデスリーパーとの死闘——敗北。あの瞬間、俺を救ったたった一人の騎士。

 目を向けると、黒銀の鎧を纏い、一本の長剣を背負った男が立っていた。

 アルトリア。

 世界最強と謳われる騎士。9話で俺を背負って戦い、死の淵から救った人物。

 その彼が、静かに俺を見下ろしていた。

「俺を……助けてくれたのか」

「助けざるを得なかっただけだ。弟子を死なせる師は愚かだからな」

 そこで俺は気づく。

 ……弟子? 俺、こいつに弟子入りした覚えなんて一度も——

「なあ、なんで俺がお前の弟子ってことになってんだ?」

 無意識の問いに、アルトリアはわずかに目を細めた。

「昔な。女神がこう言ったんだ。

 “無限の可能性を持つ者が現れる。その者が現れたとき、お前はその者を鍛えよ” と」

 女神——俺を異世界に呼んだ張本人。

「その時の条件がひとつだけあった。

 “お前がその者に手を伸ばした瞬間、その者はお前の弟子になる” とな」

「手を伸ばした瞬間……って、あの戦いの時?」

「そうだ。戦場でお前を抱えて跳び、デスリーパーに斬りかかった瞬間——。

 女神の結界が発動し、お前は正式に私の弟子となった。

 ……拒否権はない」

「なんだその強制ルール!? 俺の意思どこ行った!」

「女神の定めた契約だ。私だって不本意だ」

「不本意なのかよ!」

「ああ。私は弟子をとる気など一切なかった。面倒だからな」

 こいつ……!

 でも、その無愛想な言い方とは裏腹に、あの死闘で見せた背中は確かに俺を守ってくれた。

 アルトリアは空を見上げ、ぼそっと呟いた。

「……だが、見捨てるほど薄情でもない」

 少しだけ、胸が熱くなった。

「さて、目覚めたなら立て。これより修行を始める。地獄だ。覚悟しろ」

「始めるって……今!? 俺まだボロボロなんだが!」

「修行に万全を求める奴は弱いままだ。立て、カイト」

 アルトリアの声に、なぜか逆らえなかった。

 俺はよろよろと立ち上がり——次の瞬間。

 世界が揺れた。

まず、お前の弱点を言う。

 ——お前は弱すぎる」

「それ言われなくても分かってるよ!」

「違う。弱いのは、肉体でもスキルでもない。

 “心” だ」

 アルトリアは一本の木刀を投げてきた。反射で受け止めた瞬間、腕が痺れる。

「まず一つ。お前は“最強になりたい”と言いながら、死を恐れすぎている。

 本能がブレーキをかけている限り、本当の力は出ない」

 そう言うと、アルトリアは木刀を構えた。

「俺は……死にたくないからな」

「違う。死にたくないのではなく、痛いのが嫌なだけだ」

「ぐっ……!」

 図星だった。

 アルトリアは木刀を振り上げ、無造作に俺へ向け——

 瞬間、木刀が目の前から消えた。

 いや、違う。

 速すぎて見えなかったんだ。

 俺が気づいた時には、喉元に木刀が添えられていた。

「この程度の速度も見えないようでは、生きてデスリーパーに再戦などできん」

「こ……れで“この程度”……?」

「まだ構えてすらいない」

 化け物かこいつ。

「さあ、“感覚” を鍛える。お前が倒れるまで攻撃する。

 防げなくてもいい。ただ、どれだけ速度を目で追えるかだ」

「どれだけって……」

「死ぬまでやれ」

「過激すぎるだろ!!」

「安心しろ。死ぬ前には回復魔法をかけてやる」

「いやそれ死ぬ前提——」

 反論する暇はなかった。

 風が裂けた。

地獄だった。

 避ける

 避けられない

 痛い

 また痛い

 気づいたら倒れて

 倒れたら引きずり起こされ

 殴られ

 斬られ(木刀だけど)

 蹴り飛ばされ

 気絶したら回復され

 終わりがない。

 これが地獄か。

 いや、これが——アルトリアの修行か。

「はぁ……はぁ……お前……マジで……人間か……?」

「聞いてどうする。私は人間だ。私は昔、魔王軍の四天王と素手で戦った」

「素手って何!?」

「剣を持つ時間がなかっただけだ」

「理由が意味わからねえ!」

 アルトリアは続ける。

「……魔王について教えてやろう」

 空気が、変わる。

「魔王は——“時間を喰らう” 」

「時間……?」

「ああ。魔王は世界の寿命を喰らうことで存在している。

 魔王が健在である限り、この世界の寿命は削られ続ける。

 魔族が異常な速度で復活するのもそのせいだ」

「じゃあ……デスリーパーも?」

「魔王の“影”だ。奴は魔王の力を受けて変質した。

 本来のデスリーパーなら、お前でも勝てた」

「つまり……あいつは、魔王の力を持ってるってことか」

「ああ。そして——お前が最終的に倒さなければならない存在でもある」

 重い。

 だけど、逃げる気はなかった。

「だったら……もっと強くなりたい。

 俺は……負けたくない!」

「ならば立て。修行はまだ始まってすらいない」

「はじ……まってない……?」

「今までは準備運動だ」

 おいふざけんなよ。

「次は、“殺気” の制御だ」

 アルトリアは目を閉じ、静かに息を吐いた。

 その瞬間——

 世界が赤く染まった。

 足がすくむ。呼吸ができない。心臓が潰れるほど圧迫される。

「これが……アルトリアの……殺気……?」

「耐えろ。耐えねば、デスリーパーの足元にも及ばん」

「こんなの……化け物じゃ……!」

「なら化け物になれ。

 お前の特性 “無限の可能性” は、化け物にだって進化できるんだろう?」

 その言葉が、脳に焼き付き、体を奮い立たせる。

 ——そうだ。

 俺の特性は、無限の可能性。

 可能性に限界はない。

「やってやるよ……アルトリア……!」

「その意気だ、弟子よ」

 地獄はまだまだ続く。

 だが、この地獄の先に——

 デスリーパーへの勝利がある。

 魔王を倒す力がある。

 そして——この世界を救う“最強”がある。

 俺は木刀を構えた。

「アルトリア——続けてくれ!」

「よし。では地獄の二周目だ」

「二周目!? 地獄に周回要素なんてあるのか!!」

 俺の悲鳴が森に響き、朝日が昇り始めた。

 こうして、

 俺の“無限の可能性”を磨く地獄の修行は幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ