表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/114

「Quiet Sign, Strong Heart」~張り紙職人、中村、英語を紡ぐ。~

厨房の片隅

カウンター横に設置された掲示板に、本日もまた一枚、新たな張り紙が貼られる。


「⚠️ “中盛”はデフォルトではありません。自信をもって申告を。— 中村」

(※中村語録・第97号)


張り紙は地味に読まれている。

「ちょっとクスッとくる」と人気の“軽やか注意喚起”シリーズ。

だがその舞台裏は血と汗とインクと、Google翻訳でできていた。


最近、厨房では田中くんの多言語対応が注目されていた。

だが観光客は日に日に増える。フランス語、スペイン語、韓国語

田中くん一人ではとうてい足りない。


佐藤:「田中、無理するな。厨房はチームで回すんだ」

田中:「はい……でも、通じないまま帰るの、悲しいです」


その様子を、誰より静かに見ていた男がいた。


中村

張り紙職人にして、厨房の“最も口数の少ない先輩”。


彼は夜、自室でひとり英文を繰り返していた。


「Please say your rice portion clearly.」

「Your volume is your personality.」

……「え、これ通じるのか? いや、通じるように“育てる”のが張り紙ってもんだ……」


ある日、田中くんが厨房の奥で悩んでいた。


田中:「“そのカツカレーは揚げたてです。猫舌の方はご注意ください”って、どう訳せば……」

「うーん……“It’s hot. Careful if you have a cat tongue?”……変ですよね、これ」


そのとき、中村がスッと紙を差し出す。


中村:「Try this one.

“The cutlet is freshly fried and sizzling.

If you’re sensitive to heat, please take care.”」


田中:「……中村さん、英語……できるんですか?」


中村(少し恥ずかしそうに):「……“張り紙”は、世界語対応を始めた。

……厨房は、読む力でも、守れる」


掲示板に、初の英語版中村張り紙が貼られる日。


■「Too hot to handle? So was yesterday's workload. Eat slowly. — Nakamura」


思わず笑って読んでいたのは、外国人観光客だった。


外国人:「This sign… it has soul. Who wrote this?」

田中:「厨房の……silent warriorです」


■■あとがき:

音なき者の筆は、時にマイクより雄弁だ。


張り紙は、厨房の“無声の対話”。

そしてそれを書き続ける男・中村さんは、時代に遅れまいと燃える言葉の鍛冶屋だった。


英語は手段。気配りこそが、真の伝達。


その精神は、世界中の空腹な旅人を、今日もそっと支えている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ