番外編 「まさかの親戚筋」社長、血の気が引く
社長が再び食堂を訪れたのは、
ちょうど“ののか”が、食堂の奥の角席でアイスティーを飲んでいる日だった。
※社長は気づいていない。
※ののかも知らない。
でも、神だけは知っていた。佐藤さんである。
社長:「ふん、またいたか。あの妙に口の達者な子供」
佐藤:「え……ああ、ののかさんですね。今日も落ち着いてますよ」
社長:「名前まで覚えてるのか。まあ、最近この辺で見かけるな」
(やたら自然にこの食堂に出入りしてる。誰の子なんだろう……)
そんなとき。
ののかが、カウンターの外から出てくる女性に手を振った。
ののか:「おかあさーん、まだー?」
???:「あ、ごめんごめん、お父さんももう来るから」
???:「すまんな、ちょっと仕事延びて」
2人の姿を見て
社長の箸が止まる。
社長:「……おい」
佐藤:「はい?」
社長:「あの人、弟の嫁じゃないか……?」
佐藤:「……え?」
社長:「てことは……あの子……」
脳内警報 ―
あの気に入らないガキは、俺の姪!?
社長は席を立ち、近づいて確かめるように視線を送る。
やがて向こうも気づく。
弟:「あっ、兄貴!」
弟の嫁:「お久しぶりです~。うちのののか、お世話になってるんです」
社長:「お世話に……? えっ、ええ、まあ……その……はい……」
まさかの身内。
しかも佐藤さんからしたら、とんでもない人間関係の伏線が回収された瞬間だった。
数分後、社長は席に戻り、呆然として呟く。
社長:「……気に入らないどころか、褒めてやるべきだったのか……」
佐藤:「……すみません、こればかりは、申告制じゃなかったもので」
社長:「……やかましいわ」
ののかはにっこり笑って、
社長にこう言った。
ののか:「ねえ、次は一緒におやつ食べようよ。甘いの、好きなんでしょ?」
社長:「……うるさい……けど、まあ……うん、そうだな」
■あとがき:
食堂で出会った“妙に印象に残るガキ”が、
実は身内であり、自分の見えないところで関係を築いていたとしたら?
それはもはや偶然ではなく、
日常という名の奇跡です。
佐藤さんは言いました。
「人の縁も、味覚と一緒で、組み合わせてみないとわからないんです」




