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森田くんと川原さんの微妙な罠

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ある日の食堂。

ざわめきのなか、森田くんはいつも通り、控えめな中盛り定食を注文し、ひとり静かに席へついた。

日差しは柔らかく、けれどどこか張り詰めた空気が漂っていたのは、気のせいだったのだろうか。


隣のテーブルから、不意に声がした。


川原:「森田くん、今日もその量で満足してるの?」


淡々と、けれど計算された間をはさんで。


森田:「え、あ、はい。特に問題は……」


川原:「そう。私ね、あなたのそういう控えめなところ、好きよ」


一拍の沈黙。

それは褒め言葉というより、“伏線”だった。


森田:「そ、そんな……突然どうしたんですか?」


彼の困惑を見透かすように、川原さんは軽く微笑んだ。


■計略のはじまり

川原:「実はね、ひとつお願いがあるの」


森田:「……え?」


川原:「三宅くんと一緒にランチをと。でも、直接は少し難しくて。だから——あなたを使いたいの」


まるでオセロの石を一手、裏返すように。

川原さんの瞳に、一瞬だけ鋭い光が宿る。


森田:「ぼ、僕を……使う……?」


川原:「ごめんなさいね。正直でしょ。あなたのような人は、利用されることに慣れていない。だからこそ、信頼できると思ったの」


それは半分の真実と、半分の計算。

そして彼女にとって、それが“誠実さ”の表現でもあった。


■招待状は風のように

数日後。

森田くんは、食堂の階段の踊り場で三宅くんを呼び止めた。


森田:「……川原さんが、昼一緒にどう?って……」


三宅:「え、俺に?……なんで……?」


森田:「たぶん、きっかけがほしかったんだと思う。……君に直接じゃ、構えさせちゃうからって」


三宅:「……そういう人、なんだ……」


まっすぐすぎる森田の目に、三宅は気づく。

これはただの“伝言”ではない。彼自身が、思いを受け取って運んでいるのだと。


■ランチテーブルの静かな化学反応

三人が囲んだテーブルには、少しの緊張と、少しの予感。

川原さんは柔らかなトーンで話し始めた。趣味の話、最近観た映画、好きな味噌汁の具……。


三宅くんは戸惑いながらも、その“柔らかく設計された沈黙”の使い方に気づき始める。

彼女は話していないところで、言葉以上のことを伝えようとしていたのだ。


森田くんは、そんな二人の間に立ちつつも、自分の居場所を見つけはじめていた。

それは、誰かの“戦略”に組み込まれながらも、尊重されているという稀有な実感。


■あとがき:

川原さんの“罠”は、ただの仕掛けではなかった。

彼女にとって「誘い出す」ことは、「崩すこと」ではなく、「築くこと」の第一手だった。


森田くんは橋となり、三宅くんはゆっくりとその橋を渡り始める。


そして、申告制ランチはまた一つ、

誰にも知られず静かに、新しい物語を始めていた。

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