ドジっ子オーダーと紙対応
今日は夏本番のような陽気。
いつもより涼しげなリナさんは、ひんやりメニューに目を奪われていた。
「冷麺、中盛で! あと、もり蕎麦も……中盛でお願いしますっ」
……ちょっと待って?
厨房に伝票が届いた瞬間、佐藤さんがふと首をかしげる。
(冷麺と……もり蕎麦……? どっちも“冷”じゃん。しかも両方中盛? これは、控えめなようで結構ボリュームだぞ……?)
けれど、リナさんは涼しげな顔で席についている。
ちょっと汗ばみながらも、嬉しそうに注文を待っていた。
佐藤さん、ひと呼吸して聞きにいく。
「リナさん、今日…暑いですもんね。でも、これって両方冷たいのにしたの、間違いじゃないですか?」
「えっ……あっ、あれ? ほんとだ……つい、冷たいものばっかり……」
リナさん、思わず頬を赤らめる。
自分でも気づいていなかった“ドジっ子オーダー”だったらしい。
佐藤さんは、にっこり微笑んでこう言った。
「じゃあ、サービスでこれ、つけときますね」
と差し出したのは、まさかのアイスキャンディー。
「いや、それも冷たいじゃないですかっ!」
と、思わずリナさんが突っ込むと、
佐藤さんはちょっと照れたように頭をかく。
「……たまにはあるんですよ、神対応が……紙対応になる日もね」
——静かに吹いた笑いと、溶けかけのアイス。
そんな夏の一幕。冷たさの中にも、やさしさがほのかに残ったのでした。
■あとがき:
冷たいものばかりを頼んでしまったリナさんの“うっかり”と、それを受け止めた佐藤さんの“紙対応”。
完璧でなくても、どこか温かい。そんなやりとりの中に、夏の光が差し込んだ気がします。
「間違い」と「優しさ」は、時にとてもよく似ている。
どちらも、気づいた瞬間に人の心を動かすからでしょうか。
アイスキャンディーが溶けていくように、
笑いも照れも、ほんの一瞬。
でも、それが忘れがたい風景になる。
夏の陽気が照りつける日、
冷たさの向こう側にある「ぬくもり」を、そっと思い出してもらえたら——
それだけで、この話は少し報われます。




