佐藤さんのいない日、橋本くんのいる日
今回は、“神対応の佐藤さん”不在の厨房に、まさかの橋本くん来店事件。
いつもは「迷う男」なのに、あの日の決断力はどこへやら
厨房の若手が翻弄され、鍋が揺れ、オーダーが渋滞する。騒然とした“嵐の日”
その日は、年に数度の“佐藤さん不在デー”。
厨房のリーダー・中村さんが指揮を執り、
若手スタッフも気合を入れて厨房を回していた。
「今日は、混乱なくいこう!」
「あの神対応がいなくても、俺たちはやれる!」
そんな矢先
「……あれ、橋本くんじゃない……?」
「いや、うそ……来るの?今日?」
そう、橋本くんがよりによってこの日に現れた。
しかも単独。
中村さん、動揺。
「くっ……今日じゃない……今日じゃないだろ…!?」
田中くん、叫ぶ。
「佐藤さんいない日ランキング第1位で来ちゃいけない人ッス!!」
■橋本くん、注文カウンターに立つ。
彼は、お盆を手にゆっくりと前へ出る。
厨房スタッフ全員、心の中で祈る。
「えっと……」
「あ、唐揚げいいな。いやでも、アジも……あ、ハンバーグもあるんだ……え、日替わりは……?」
「あ、じゃあ唐揚げで……いや、違うかも。あれ、サラダ付いてたっけ……?」
田中くん(心の声):
「あぁっ!“注文迷い台風”が来たッス!!これは止まらないやつ!」
列が徐々に渋滞していく。
影山さんの“あれ”は処理済み、鈴木さんの“訂正ありカレー”も完了済み。
しかし、橋本くんだけが、まだ口を閉じたり開いたりしている。
ついに中村さんがカウンターの内側から優しく言った。
「橋本さん……何にしましょうか。
迷ってたメニュー、全部出しましょうか」
橋本くん:
「えっ!?いや、それは……え?いいんですか?」
そして出てきたのは、
「橋本盛り」と名付けられた、
唐揚げ2個・アジフライ半分・ハンバーグ1/3・サラダ多めの夢の迷い定食。
厨房内では、これが“まかない未満・日替わり未満・橋本迷盛り”と呼ばれた。
食後、帰り際。
橋本くんは、中村さんに頭を下げてこう言った。
「……いつも、佐藤さんに頼りすぎてたかもしれません。
今日はちょっと……自分の“優柔不断”に向き合えた気がします」
中村さん、笑って答える。
「じゃあ今度、佐藤さんのいない日、また来てください。
厨房全員で、迷わせてみせますから」
■あとがき:
佐藤さんのいない日。
厨房は揺れ、注文は渦巻き、
でも、そこには**“迷いの自由”が許された空気**があった。
橋本くんはまだ優柔不断だけれど、
少しだけ“決める楽しさ”を知った一日だった。
明日も更新いたします。ぜひ見に来てください。




