ののか、再び
「ののか、再び」あの路地裏の少女が再び神対応の佐藤さんの前に姿を現す、静かな奇跡の物語。
一皿がつなぐ縁が、もう一度、厨房の火をやさしく灯します。
ある日、食堂にいつもの昼のざわめきが戻る。
社員たちが次々と列を作る中、
厨房の奥では佐藤さんが、静かに汁椀の香りを確認していた。
すると
「……あの、ここって、たべてもいいところですか?」
声がした。
聞き覚えのある、あの素朴で芯のある声。
佐藤さんが顔を上げると、
制服姿の少女がそこに立っていた。
「…ののか?」
ののかは照れたように笑い、
ランドセルを背負ったまま小さく会釈した。小学生にもかかわらずしっかりした対応。
「あのときのごはん……いまだに忘れられなくて。
ここでつくってるって、知って……来ちゃいました」
佐藤さんは、うれしさと驚きの混ざった表情で彼女を見つめ、
厨房の奥にある「関係者用ベンチ」に静かに案内する。
「ちょうど“まかないメニュー”の試作してたんだ。
食べていってもらおうか、特別なお客さんに」
厨房はざわついた。
田中くんは「あれ誰ッスか!?」と興奮し、
森田くんは「えっ、佐藤さんに小学生の知り合い!?」と驚く。
だが、佐藤さんは静かに答えた。
「これは、俺の“初心”みたいなもんだ」
その日、ののかの前に出されたのは、
「焼きおにぎりコーンポタージュがけ」と、
「トマトのきんぴらサラダ」どちらも、余り物から編み出された再構成料理。
ののかは、ひとくち食べて、ふわっと微笑んだ。
「やっぱり……おいしい」
そして帰り際、ののかは厨房の奥に向かって、
少し背伸びするように声を張った。
「わたし、いつかここで作る人になります!」
厨房の全員が、一瞬止まった。
田中くんが「採用っスね!!」と叫んだ。
佐藤さんは、笑いをこらえてこう言った。
「じゃあ、それまでにもっと腕、磨いとくよ」
■あとがき:
人と人は、言葉ではなく“ひとくち”で通じ合うことがある。
ののかは、ただの客ではなく、
佐藤さんにとって料理を作る理由の一つになっていた。
そしてその理由が、また新しい物語を紡ぎはじめる。
明日も更新いたします。ぜひ見に来てください。




