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第二章 鍛冶ギルド争議と魔王の影

1 ギルド総会の波紋


 炉の暴走を鎮めた一週間後、鍛冶ギルド本部では緊急総会が開かれた。半円形の石造議場には、錬鉄で縁取られた長机が段状に並び、百名近いマイスターが椅子を軋ませて座っている。議場中央に置かれた炎のホルダーが、古式ゆかしい赤い揺炎を灯し、討議の熱を象徴していた。


 悠斗とリーゼはガルドの隣、一段低い列に案内された。見上げれば、白髪を腰まで伸ばした長老バスティルが木槌を構え、開会を宣言する。


「議題は二つ。第一に、魔力炉暴走事故の責任追及。第二に、人間・佐倉悠斗殿が提案する“生産ライン最適化計画”の可否である」


 長老の声が石壁に響くと同時に、保守派の職人たちが口々に叫んだ。


「こいつの改造こそ事故の遠因だ!」「外様の小僧に我らの工房を弄らせてたまるか!」


 息巻く声は鍛冶槌がぶつかり合うように激しく、議場の温度が実際に数度上がったかのようだった。しかし事故の爆心にいたガルドは微動だにしない。彼は低い声で一言だけ発した。


「静まれ」


 その一喝は鍛冶槌より重く、議場を水で打ったように沈黙させた。ガルドは立ち上がり、悠斗を示す。


「炎を鎮めたのはこの男だ。あのままなら炉心は破裂し、工房は瓦礫と化していた。――それとも貴様らは誇りのために死にたいのか?」


 問いは脅しではなく、鍛冶師としての覚悟を量る天秤だった。誰も答えられない。やがて長老が咳ばらいをし、悠斗へ発言を許可する。


「……それでは、最適化計画の詳細をお願いしよう」


 悠斗は胸の前で深呼吸し、携行式の幻灯投影機を起動した。空中に浮かぶのは、監督フェリンが提出した稼働ログと、リーゼの帳簿魔法が算出したコストチャート。彩度を落とした赤と青のグラフが、改善前後でクロスする瞬間をくっきり描く。


「二週間で魔力使用量を三〇%削減しつつ、生産数を二五%増やす工程設計です。残業時間はゼロを想定し、三交代制の導入で雇用も一〇%増やせます」


 議場がざわつく。長老が眉を吊り上げ、慎重に尋ねた。


「理屈はわかった。しかし、伝統技術の矜持はどう確保する?」


「手仕上げ工程は残します。匠の勘や研磨の音色を記録し、ゴーレムが序盤工程を担い、仕上げはマイスターの手に戻す。品質向上とブランド価値を両立できます」


 赤銅色の目をした若いドワーフ女性が立ち上がった。「その案……わたしは賛成だ!」


 拍手がまばらに広がり、やがて一人、また一人と手が挙がる。反対派の中にも、昨夜の恐怖を思い出した者が多かった。結局、賛成六割、反対三割、保留一割で“試験導入”が可決された。


 議場を後にする廊下で、リーゼが安堵の息を漏らす。


「想定より高い賛同率ね。ガルドさんのカリスマも大きかったわ」


「それでも改革は半歩進んだだけだ。次は――王宮だ」


 悠斗の視線は遠く、王都中心部にそびえる大理石の塔〈王政庁舎〉へ向いていた。


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