接ぎ木
一昨日の月曜真っ黒シリーズはお客様が少なかったので……今日は黒さを増し増しにいたしました(^m^)
水曜真っ黒シリーズ??
僕は昔……結構いい生活をしていた。
父はその土地の素封家の長男で事業も手広くやっていた。
そんな男の一人息子だった僕は、その家柄のおかげで同級生からも一目置かれる存在だった。
でも母は本当に優しい人で「相手があなたの事をどう思い、どう扱おうとも、あなたは常に優しく接しなさい」と口酸っぱく僕を諭していたので……少なくとも同級生から理不尽に憎まれる事は無かったと思う。
それが良かったのか……中学に上がって……お互いが異性を意識する様になった頃には……僕はクラス一の美少女だった美沙子と付き合っていた。
“家”の方針で学校こそ公立の中学校に通ってはいたが塾には行かず、科目ごとの家庭教師について勉強していた僕は成績も常に一番で……まさに順風満帆の人生で……僕は幸せだった。
ところが、その幸せは突然に潰えた。
元々“何号”まで居るか分からない様な父だったけれど、その中の一人が母を押しのけ父の正妻となった。
母は父の息の掛かった“証言者”達や公権から一方的な濡れ衣を着せられ、ビタ一文支払われずに家を故郷を追われた。
優しい母をここまで追い詰めた“元凶”は……父が良く通っていたクラブのホステスで……事もあろうに美沙子の母親だった。
街を出る日、学校は世間の縮図だと言う事を痛い程感じながら、僕は教壇の前に立ち、皆にお別れの挨拶をした。カバンを下げて教室を出ると、すれ違う生徒が皆、僕をあざ笑っている様に思え、駆け出したいのを必死で我慢しながら校庭を横切っていると「孝明くん!」って声と共に美沙子が走って来た。
けれども僕は
「もう構わないでくれ!!」と怒鳴り返した。
それは僕が初めて……人に対して吐いた暴言で……
僕は自分が吐いた暴言に追い掛けられそうな気がして、一目散に駆け出し、駅で僕の事を待っていた母の胸に飛び込んで大泣きした。
母は僕を抱きしめ、僕を不躾な視線達から守りながら、そっと囁いた。
「ごめんね。孝明……」と
それでも恨み言のひとつも零さぬ母だった。
ただ、亡くなるまで僕に……「孝明……本当にごめんね」と言い続けただけだった。
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本当は二度と行きたくない場所だったが、奨学金を返さなければならない身の上だし、社会の荒波とやらにもそれなりに揉まられているわけだから、僕は社命に速やかに従い未就学児用の学習キットのサンプルと資料を取り揃えて、“あの門構え”の家へ赴いた。
僕が知っている“使用人”は一人もおらず、ありふれた苗字でどこにでも居そうな『鈴木孝明』と言う名刺にも反応は無かった。
通された応接間はいくつかある中で最も簡素な部屋で……幼い頃、僕が遊び場にしていた場所だ。注意して見ると、僕が“蛮行”の挙句付けた傷が壁にしっかりと残っていた。もっとも、子供の目線で探さなければ分からない場所なのだが……
この家に、今では当時の僕と同じ年頃の子供が居る。
あの女の子供が!!
僕の目の前にお茶を置いたメイドが告げる。
「奥さまは、まもなくいらっしゃいます」
僕は、あの女の顔を二度見た事がある。
一度目は美沙子の母親として
二度目は泥棒猫として
きっと美沙子は父親似だったのだろう
そう思う事が、ある種、僕の救いでもあった……
そして、それはきっと今も……
駄目だ!!
私怨は仕事の妨げになる。
渦巻く感情をお茶と一緒に飲み込んだ時、ドアがノックされ、僕は居住まいを正した。
ドアが開けられ、見覚えのある顔が入って来た。
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僕はともすれば震えそうになる声を必死に抑えてプレゼンを推し進めた。
目の前に座っているのは……大人の女の妖艶さを……子を想う母の慈愛で包み隠した美沙子だった。
成約となり、僕はこう言ったセールスでの常套句を口にした。
「失礼ですが、お子様はお嬢様お一人ですか?」
「ええ、残念ながら……主人も私も、男の子が欲しいのですが……一向に報われませんの。ただ、私の母は一人も産む事は出来ませんでしたから……」
「えっ?!」と聞き返す僕に
美沙子は目を伏せながら言葉を置いた。
「男の子が出来ないのは……天罰なのかもしれませんね」
おしまい
何でこんな恐いお話ばっか思い付くのかなあ……なんて思いながらも、ちょっと涙ぐみながら書きました(:_;)
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