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異世界帰りのハーレム王  作者: 津田智弘
ハーレムファミリー結成編
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第4話 俺力(おれりょく)



 異世界から帰還した俺には、以前はまったく見えなかったものが、今ははっきりと見えるようになってしまった。



 そう――妖怪、幽霊、いわゆる非現実的な存在だ。


 

 最初に気づいたのは、帰還直後のことだった。

 俺は、喜びのあまり家の中で踊り狂っていたんだ。



 

「これが俺の新しい人生だ!異世界を生き抜いた俺は、もはや無敵だぁぁぁ!!」




 そんな感じでテンションMAX。

 これぞ、まさに新しい自分だ!と、自作の即興ダンスを決めていたその瞬間――。



 

「……ん?」




 気づいた。誰かに見られている。

 妙な視線を感じて振り向くと――。


 そこに幽霊がいた。



 

「ひゃぁぁぁぁああああ!!!!!」




 廊下の隅、薄暗い空間に佇む、透き通るような幽霊。

 白い服を着た中性的な姿が、じっと俺を見つめていた。


 その場で心臓が止まるかと思ったね。

 なんだよこれ!?どんなホラー映画だよ!?


 完全に予想外だった俺は、パニックに陥りながらも本能的に叫んだ。


 


「悪霊退散!!悪霊退散!!!」




 ちなみに、この呪文を言うのは初めてだ。

 根拠はない。でも、どうやら異世界での経験値が無意識に発動したらしい。


 幽霊はじっと俺を見つめたままだ。いや、見つめ返してくるなよ!視線が冷たいんだよ!


 とりあえず俺はノリと勢いで続ける。


 


「この家の平和を乱すな!立ち去れぇぇぇぇぇ!!」



 すると――。


 

 幽霊、成仏。


 


「……え、マジで退散しちゃったのかよ?」




 呆然とする俺。いやいや、俺、普通の高校生なんだけど。

 異世界では魔王を倒したけど、まさか現実で除霊スキルまでついてくるとは思わなかった。


 こうして俺の現実世界での初除霊ミッションは、意外とあっさりクリアされた。


 


「……でもこれ、幽霊って他にも見えたりするのか?」




 その瞬間、部屋の隅っこからまた別の視線を感じる俺だった。

 この家、どんだけ幽霊スポットなんだよ!?



 


 そして、もう一つ気づいたことがある。


 この世界には、どうやら 「呪術師」 って奴らが存在しているらしい。



 ……いや、前まではそんなもの気にも留めてなかったんだよ。


 

 そもそも「呪術師」とか「除霊」とか、フィクションの中の話だろ?って思ってたし、

 そういうのが現実にいるなんて、考えたこともなかった。



 

 でも――




 異世界から帰還した俺は、知ってしまった。


 

 どうやらこの 呪術師ども、妖怪、悪魔、幽霊を除霊する専門部隊みたいなもんらしい。

 言ってみれば、この世界の隠れたエクソシスト軍団だ。


 しかも驚いたことに、こいつら、普段は完全に日常に溶け込んでやがる。


 たとえば、こないだ行ったコンビニの店員――あいつ、呪術師らしい。

「ありがとうございました〜」なんてレジ打ちながら、実は除霊用のお札とか懐に忍ばせてるっぽい。


 

 駅前でよく見るスーツ姿のサラリーマン――あいつもだ。定時後に夜な夜な妖怪を狩るとか、めちゃくちゃギャップ萌えじゃねぇか。


 

 要は、俺が気づかなかっただけで、

 この世界にはすでに 呪術バトルロワイヤル の真っ最中な連中が潜んでたってことだ。



 

「おいおい、現実世界、俺が知らないだけでこんな奴らまでいたのかよ……」




 見た目は普通の人間だけど、彼らは日々幽霊や妖怪と戦いながら、

 世の中の平和を守っているらしい。――いや、どうりで最近やたらと治安がいいと思ったぜ。


 そして、俺は……どうやらその存在を 異世界で鍛えた目 で見分けられるようになっちまった。





 ――――――――――――



 


 その日の夜。

 俺はコンビニで買ったおにぎり(ツナマヨ派)を片手に、のんびりと家路についていた。


 

 ふと、視界の隅に奇妙な光景が飛び込んでくる。



 例の呪術師たちだ。

 しかも、何やら複数人でワチャワチャしている。



 おいおい、深夜にこんな場所で怪しい呪文を唱えながら、誰かを追い回してんじゃねぇよ!

 


 思わず立ち止まって目を凝らしてみる。



 

「ひ〜!ごめんなさい〜!!もうしませんから〜!」





 女性の悲鳴が聞こえた瞬間、俺の正義感スイッチがカチッとオンになった。



 

「おいおい、何してんだあいつら!?」




 声の元に走る俺。コンビニ袋を片手に全力疾走だ。


 

 そして――その場面に遭遇する。



 呪術師たちに追いかけられて涙目で逃げる少女。

 いや、少女っていうか……


 


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」




 俺の脳内で警報が鳴り響く。

 目の前には、まるで絵画から飛び出してきたかのような美少女がいた。


 銀色の髪が月光に輝き、長いまつ毛が青い宝石のような瞳を際立たせている。

 その瞳――ただの瞳じゃない。まるで冬の湖面のような静寂と深さがある。


 彼女の薄雪色の着物が風になびくたび、袖がふわりと舞い、周りに雪片が踊るような錯覚を覚える。

 そして、鮮やかな赤い帯。

 冷たさと儚さを纏った中に、ひとすじの暖かさを感じさせるその姿……



 

 ――――――美しい!!




 俺の語彙力が崩壊する。

 いや、語彙力が崩壊するだけならまだいい。



 

「かわい子ちゃんやんけぇぇぇぇぇ!!!」




 俺の脳内は、美少女アラートが全力で鳴り響いていた。



 

「待て待て待て!可愛い!可愛すぎる!!」




 こんな美少女が呪術師どもに追われてるだと!?

 許せねぇ!!許せるわけがねぇ!!


 

 冷静に考えろ、雷丸。

 異世界から帰還した俺が、この世界でやるべきことは何だ!?

 そうだ――俺のハーレムを作ることだろうが!!



 

「これは……間違いない!俺のハーレムに入るべき運命の一人じゃねぇか!!」




 興奮と使命感が入り混じる中、俺は拳を握りしめた。

可愛い女の子を泣かせるなんて、呪術師ども、貴様ら許されるわけがねぇ!!



 

「この俺、飯田雷丸が――お前らをぶっ飛ばしてやる!!」




 そう叫びながら、周囲の状況なんて気にしてる暇はない。

 冷静だって?

 そんなもん、この場には必要ねぇ。




 俺はただ一つ、心に決めたのさ――



 

「どっちが正義かは知らねぇが、可愛い女の子の味方をするに決まってんだろうが!!」




 見知らぬ美女を助ける。

 俺にとって、これ以上の大義名分なんてねぇんだよ!!



 

「待ってろ、かわい子ちゃん!今すぐ助けるぜ!!」




 俺はその場に立ち止まり、深呼吸を一つ。

 そう――集中だ。


 今から使うのは、異世界で学んだ魔法。

 この現実世界ではおそらく誰も知らない、俺だけの力だ。



 

 異世界『ネイヴェルス』で俺が叩き込まれた”根源魔法”。



 人にはそれぞれ”根源”というものがあって、それを元に魔法を繰り出すんだ。

 火を根源に持つ奴なら、めっちゃ強い火を操る。

 勇気を根源に持つ奴なら、どんなヤバい状況でも立ち向かえる。


 そして、俺の根源――それは。



 

「俺だ!!!」




 ……いや、マジで。


 俺の根源は「俺」。

 自分自身の存在そのものが、俺の魔法の源なんだ。

 ちょっと何言ってるかわかんない?


 

 説明しよう。



 俺の魔法の特性は“自己強化”だ。

 簡単に言えば、俺という存在を深掘りすれば深掘りするほど強くなる。


 例えば、俺が「俺は最強!」と信じれば信じるほど、文字通り強くなる。

「俺はめっちゃカッコいい!」と信じれば、どんどんカッコよくなる。


 

 “俺”という自分の認識そのものをパワーに変える魔法だ!!


 

 もちろん、ネガティブに考えたら逆に弱くなるけど……

 いやいや、そんな心配いらねぇ。

 何たって、俺は“俺”だからな!



 

「さぁ、俺の力――解放してやるぜ!!!」




 俺は心の中で自分自身を全力で肯定する。


 

「俺は無敵だ!」

「俺は最高にカッコいい!」

「俺は絶対に負けない!」




 この世界に自信過剰とか言う概念が存在するなら、今の俺は間違いなくその頂点に立っている。


 するとどうだ!?身体中に電流が駆け巡り、全身にビリビリとした感覚が走る。


 


 これが俺の力――通称「俺力(おれりょく)」だ!!



 

 青白い光が体を包み込み、髪がふわりと逆立つ。

 その様子を鏡で見たら、自分で見惚れるほどのカッコよさだ。


 

 まぁ、当然だけどな。俺だから。



 そして、俺の中からあふれ出るこの圧倒的なパワー。

 これが……異世界帰りの俺の新たな力だッ!!!

 


 

「行くぜぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」




 全力で駆け出した俺。

 この“俺”という力で、美少女の運命を変えてやる!

 

 


 呪術師どもはというと、何やら怪しげな呪文を唱え始めた。

「我が名は……」とか「闇に飲まれし……」とか聞こえてくるけど――



 

「……ダッサ!」




 思わず笑っちまった。何だこの中二病のフルコースは!

 もしかして、この呪術師ども、闇の軍勢じゃなくてコスプレサークルの集まりだったか!?


 だが、そんなセリフも俺にかかれば無意味だ。

 俺の出番だ――異世界で鍛えた必殺技、“魔術キャンセル”の発動だ!!



 

「魔術キャンセル、発動ォォォォ!!!」



 

 俺が叫ぶと同時に、呪術師たちが詠唱してた呪術がピタリと止まる。

「えっ?」という顔で俺を見る呪術師たち。お前ら今、自分たちの姿を鏡で見たらきっと叫ぶぞ?



 

「な、なんだこれは!?呪術が……消えた!?」




 驚愕と混乱が入り混じった表情、これが見たかったんだよ!

 一生懸命呪文を唱えてたのに、結果ただの発声練習になっちまった。



 

「……え、何?お前ら声優目指してんの?」




 俺が冷やかすと、一人が微妙に顔を赤らめた。おい、図星かよ!?


 そして呪術師たちは、まるで人前で恥ずかしいポエムを朗読してしまったかのように、呆然と立ち尽くしている。


 その顔がまた最高だ。何かに必死だった奴が、それを一瞬で台無しにされた時のあの顔――フッ、たまらねぇぜ。


 俺はそんな彼らの顔をじっくり堪能しながら、ポツリと呟いた。


 

「いやぁ、君たち……まじでダサいな」




 呪術師たちは、一斉に俺を睨みつけたけど――フッ、甘いな。


 


 俺は一瞬の隙を突き、一気に動き出した。

 呪術なんて使えなくなったお前らに残されたのは、ただの素手。



 ――そして俺には、異世界で鍛えた華麗な体術がある!



 

 一人目、背後から軽く首筋をトン。


 

「オヤスミ~!」



〈ドサッ!〉



 二人目、前方から飛び込んできた拳をヒラリとかわし、足払い。


 

「転んじゃったね!」



〈ドスン!〉



 三人目、拳を握って突っ込んできたところをカウンターの一撃。


 

「気合いが足りねぇよ!」



〈ゴンッ!〉



 

 次々と呪術師どもが崩れ落ちていく。

 これ、もう勝利確定だろ?


 俺は勝利の手応えを感じながら、自分の戦いぶりに酔いしれていた。

 足さばきは軽やか、拳は鋭い。俺の動き、マジでカッコよすぎないか!?


 助けられた女の子――銀髪の美少女もきっと見てくれている。

 そうだ、この俺、飯田雷丸は現実世界でも英雄になれるんだ!



 

「これはもうハーレム入り確定だな……」




 心の中でそう呟きながら、俺はさらに気持ちよく呪術師たちを沈めていったのだった。

 

 



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