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到来するその日の姿

無知者の祈り

 目を開けたまま鼻から血を噴き出して、彼女は倒れた。


 つい先ほど、近くで爆弾がさく裂した。その時彼女は私に寄りかかった。この時彼女の口から出たのは「主の律法...」「主の定め...」

 あとは聞き取れなかった。そして、もう口を開くことはなかった。


 主よ、あなたのはしためはこうして御許へ召された。


 以前にも彼女は口に出して自らの行いを告白したことがあった。

「主の律法は完全で、魂を生き返らせ、

 主の定めは真実で、無知の人に知恵を与える。

 あなたの(しもべ)はそれらのことを熟慮し、

 それらを守って大きな報いを受けます。

 知らずに犯した過ち、隠れた罪から、

 どうかわたしを清めてください。

 あなたの(しもべ)をおごりから引き離し、

 支配されないようにしてください」

 彼女の言葉が今、私を駆り立てる。どこへだろうか?


 残された私は、黙し続ける代わりに、怒りを覚えて復讐を誓った。

「あの爆弾は奴らからもたらされた。

 奴らは無差別に市民を殺し、

 これからも殺すと宣言している。

 それならば、我々自身を守ろう。そのために戦おう。

 奴らの罪を追求し、罰を与えなければならぬ。

 目には目を、歯には歯を。

 いや、それだけでは足りぬぞ。

 対抗しなければならぬ。

 復讐しなければならぬ。

 私は傷の報いに人を殺し、

 うち傷のために若者を殺す。

 カインのための復讐が7倍なら

 レメクのためには七十七倍の復讐を!」

 こうして、私は黙ったままで戦いに身を投じ、敵兵を殺し続ける。さらに、敵兵の背後で彼らを動かす市民たちを殺し続ける。


 この戦いは、相手が滅びるまで続くのだろうか。いや、相手が死に絶えてもまだ終わらない。おそらくは墓を暴いて死者となった奴らを破壊し尽くしても、終わらない。それほど、われらの憎しみは強い。おそらく生き残ったとしても、私の、私たちの心は解放されない。

 罪の意識が我らを捕らえ続けるのか? いや、憎しみと復讐の念が私たちを捕らえ続ける。こうして、双方に正義はなく、皆死に絶え、皆許されることがない。 

 

 ふと、われに返った。我々は憎しみと復讐の縄目に捕らえられて、逃げ出すことができなくなっていた。これが、滅びに定められた者に見せた悪夢。それによって無知な者に知恵があたえられる。せめて、私は私の心に欺きのないように振り返った。


 私はふたたび黙し続けた。そして、絶え間ないうめきに骨まで朽ち果ててしまった。

「いかに幸いなことか

 背きを許された者、

 罪を覆われた者、

 主が咎を数えぬ者」


 御使いが近くに来ていた。それが最後のチャンスだった。私は自らの罪を御前に示して咎を隠さずに、言った。

「主に私の罪を告白しよう」と。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 戦争は悲しいですね。
2023/12/27 20:36 退会済み
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