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ロケットがのせる

作者: 雉白書屋

 見上げる、見上げる、空を見上げる。その向こうの宇宙を見上げる。

 そして首を下ろし見つめる先は国の威信をかけた大きなロケットだ。

 先進国の手を借りず、一から作り上げたロケットだ。

 現場に集まった人。人。人。人。押しかける見物客。

その勢いに進入禁止区域は侵食されるように狭まった。

 大地は覆い隠され肉の砂漠。

 息苦しく時折、喧嘩だ喧嘩。怒号が飛ぶ。

殺すぞうるせえ死ね殺す誰だ今殴ったのはうるせえな。

 対照的に雲一つない自由な大空。天国も見えそうだ。

その空へ向けてロケットは飛ぶのだ。

 地上の熱気は頂点に達し、押し合いへし合い罵声悲鳴の中

ついにロケット発射のカウントダウンが始まる。


 十で興奮した人々がロケットにさらに近づこうとフェンスを乗り越えだした。

 九で押され押され、キレた誰かが懐から銃を抜いた。

 八で銃声がした。

 七で悲鳴が上がった。

 六で別の誰かが応戦しようと銃を抜いた。

 五で銃弾が放たれた。

 四で流れ弾を食らい、また人が倒れた。

 三で周囲の者たちが銃を持つ者を殴り踏み、目を耳を毟った。

 二で狂乱は伝播し、人々は逃げ惑い、ぶつかり合った。

 一でロケットから噴射された煙に人々は飲み込まれた。

 零でロケットは醜い地上から逃げるように空へ昇り始めた。



 そして誰もが動きを止め、歓喜の声を上げた。死体さえも声を上げた。

 正確には誰かが死体の腹を踏み、噴き出した血と空気の音だ。

でも、どうでもいい。誰も彼も空を見上げ、気にしていない。争いは嘘のように消え失せた。

 人工衛星と国の人々の夢と希望をのせたロケットは昇り、昇り。

少年少女。国の多くの人間に、のせた以上の希望の雨を撒くのだろう。



 それも否。ばら撒いたのは鉄と火の雨であった。

 ロケットは爆発し、残骸が地上に降り注いだ。


 原因はわからない。調査はするが明らかになるのは数年後だろう。

 揉み消されなければの話だが。



 このプロジェクトのある関係者はペットの猫の死体をこっそりロケットにのせた。

星になってほしいとの考えだ。

 またある関係者は妻の死体を同じくこっそりロケットにのせた。

星になってしまえとの考えだ。

 またある関係者は介護が面倒になった母親を。

 またある関係者は賄賂を貰い廃棄物を。

 またある関係者は飼い切れなくなったペットの蛇を。

 またある関係者は人を撥ねたバイクを。

 またある関係者は……

 また……



 地上は阿鼻叫喚。地獄は天国から落とされた爆弾によりできあがった。

 不安と罪悪感を抱いた関係者たちはそっと胸の前で十字を切った。

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