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9(side ならず者)

1ウィー = 1メートルとなります

「お(かしら)!アジトに拘束していた探索者共を連れて参りやした!」


 作戦の途中から別行動させていた部下が戻ってきた。荷車にはこの半月で捕らえた探索者が拘束され、意識を失ったまま乗せられている。


(さわ)がれても大変なんで、昏睡草で作った睡眠薬を飲ませておきましたぜ。これなら少々蹴飛ばしても起きやしねえ」


「ご苦労。こいつらを連れてアンチェルナ帝国に向かうぞ」


  荷台に積んだこいつらをまとめて売れば、しばらくは金に困らない生活ができるだろう。

(かしら)は手下にねぎらいの声をかけ、次の指示を出した。


「「へい! 了解しやした!」」


 合流した部下が威勢よく返事をする。


 周りを見回し、手下がそろったことを確認した(かしら)は満足そうに頷く。


 だが、付き合いの長いデリーは(かしら)の様子に戸惑う。昨日までは準備した荷車に乗せられるだけ捕らえようと意気込んでいたはずだった。


お頭(ルドルフ)、どうしたんですかい? もう少し探索者を捕まえると息巻いてたのに、やけに大人しいじゃないかい?」


 デリーの質問に(かしら)……ルドルフは肩をすくめる。エレナ国にいた頃からの友人であるデリーにだけは、自身の名を呼ぶことを許していた。


「昨日まではそのつもりだったが、少しばかり嫌な予感がする。何でも屋の様子を見るに、今日捕らえたあいつら以外に探索者はいないみたいだ。季節的には少し早いが……誤差の範囲だ、まあ問題ないだろう」


 眉間にしわを寄せ、残念そうに答えるルドルフの言葉に納得したデリーは腕組みをしてうなずいた。


「むっかしからカンが鋭いっすからねぇ、お頭(ルドルフ)は。エレナ国にいた頃も、この国(アルカディア)の軍隊はおっかねぇって酒場で噂になっていたぐらいだし。……考えあっての事ならおいらは従うっす」


 デリーは、ルドルフの直感に何度も助けられている。彼がそういうのならば、さっさと逃げてしまった方が良いだろう。

 頭の言葉に他の手下もなるほどなと頷いた。


「そうっすね! せっかく捕まえたのに売る前に捕まるのは嫌ですもんね」


「さっすが、お(かしら)、なんでもお見通しですなぁ!」


「早く行きましょうぜ、お(かしら)!」


「……うるせぇ。とっとと目的地へ向かうぞ!」


 手下たちの称賛に照れたルドルフは手を振りながら背を向ける。



【日の星】は燃え尽きて、暗くなった空に弓形の【白き星】が天に浮かぶ。売り物を連れて移動するには都合がいい時間だ。


 商人が使っていた竜車を先頭に、ならず者たちは国境へ向かう道からそれ、壁に沿って一度南に向かう。


お頭(ルドルフ)、ここですかい?」


 国境を区切る壁には等間隔で穴が開けてある。


 4ウィーもある大穴は、この国(アルカディア国)とエレナ国を移動する大羊の為の道としてわざわざ作られたもので、半年に一度、半月の間だけ解放されているのだ。


「そうだ。この獣道を使う。例の物を準備しろ!」


 ルドルフの言葉を聞いた手下は数人がかりで荷台からそれを取り出し、荷台に被せる。


 それはもこもことした毛の塊……大羊をしとめて寧に皮を剥ぎ、荷車を覆うために一枚に繋いだもの。

 大羊の成体の最大サイズは一般的な竜車よりも一回り以上……平均的な大人の大羊でも3ウィーはゆうに超える。そんな巨体を覆うほどの毛皮なのだ、かなりの大きさになるのは想像できるだろう。


 まるで毛玉のような姿の大羊は基本的には臆病な生き物であり、ヒトが居れば近づかない。それでも、不幸にもヒトと鉢合わせれば、大羊はその巨体で体当たりをしてくるので危険だ。

 かといって、獣道をそのままにしておけば密入国し放題となる。なので、大穴を介抱している時期は、周囲に見張りをつけない代わりに結界が張られているそうだ。


 大羊は自由に行き来できるが、ヒトがそのまま入れば結界に阻まれ動けなくなる。同時に近隣の軍に連絡が行き、軍が駆けつけてくる仕組みとなっている。


 しかし、この結界には抜け道がある……それが、今手下が荷台に被せている【大羊の毛皮】というわけだ。


「荷物を覆ったら、お前たちも身にまとえ。大羊を装うんだ!」


 頭に言われ、手下は毛皮に身を包む。


 しばらくして、獣穴の前には大きな毛玉と小さな毛玉が出来上がった。


「へへっ、まるで大羊になった気分だぜ」


「うっせぇ! てめぇらだって似たようなもんだろ!」


 ルドルフは手下の間抜けな見た目に噴き出すのをこらえるのに必死だった。しかし、ここで止まってしまっては元も子もない。


「……よし、行くぞ。この結界の判断基準はかなりザルでね、【大羊の毛皮】を纏ってしまえば通り抜けられるのを確認している」


「よく知ってますね、(かしら)


「おう、魔法の知識はあるんだよ。便利だしな」


「さすが、お頭(ルドルフ)! すごいっす」


 ルドルフの知識に手下が再び称賛する。


「ほめても何も出ねぇぞ! 行くぞ、てめぇら!」



 頭の号令にならず者一行はぞろぞろと移動を始める。

 ……穴の先にはエレナ国とアンチェルナ帝国を分断するディアブロペトラ山脈麓の森が広がっている。

 この辺りも比較的魔物が少ない地域だが、大羊が移動する時期は特に少ない。


「わざわざアルカディア国境東の検問を抜ける手段を考えるより、一度エレナ国の端を経由してからの国境越えの方が楽だからな」


「へ~。詳しいんですね、お(かしら)


 大羊は間抜けな見た目とは裏腹に、敵と認識した相手には群れで突進し非常に危険なため、並の魔物も彼らを避けるのをルドルフはよく知っていた。


 毛玉集団の先頭が壁の穴を潜り抜けたのを確認する。


大羊の毛皮を纏っている今なら、安全に移動できる。このまま順調に進めば、半日ほどでアンチェルナ帝国に入ることが出来るだろう。

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