5(side 探索者)
「うわー! おにいちゃん、探索者? 立派な剣を持ってるねぇ!」
「お姉さんは魔法使い? 杖がキラキラしてる!」
不意に声をかけられたオスクとインは驚いて背後を見る。
同じヒュミナ族と思われる茶髪の少年と黒髪の少女……顔つきはよく似ていて兄妹と思われる子供が噴水の背後から三人を見ていた。
「ええ、そうよ。私達探索者なの」
「まあ、ベテランはそこのシェイドだけで、俺らはまだ駆け出しだけどな」
オスクとインは腰かけていた噴水から立ち上がると、兄弟の前に行く。
兄妹はそんな二人の周りをくるくると回りながら観察する。ひとしきり見た後、兄弟は目を輝かせた。
「かっこいいなぁ! かけだしって意味わからないけどすごいなぁ!」
「うん、すごーい! ねぇねぇ、お姉さん。魔法見せてよ! 魔法!」
興奮した様子ではしゃぐ兄妹にオスクとインは困惑しているようだ。
シェイドはそんな二人に助け舟を出すか考えていたが、数年前彼らが自身に師事を頼み込んできたことを思い出し、今回は静観することにする。
子供が無邪気にはしゃげるのは治安が良い証拠だ。よく見れば大通りを行きかう街の人の顔も明るい様子。
(何でも屋で依頼を受けた時に聞いた情報だが、そこまで深刻ではないのかもしれないかもしれない。)
そう思ったシェイドの口元からは笑みがこぼれていた。
「時間は……まだ余裕があるみたいね、いいわ。見せてあげる。……氷よ踊れ、≪氷の小風・極小≫!」
インは杖をかざして呪文を唱える。すると、小さな氷の粒が現れ風と共に兄妹達の間を吹き抜けていった。
「うわー! さむーい! きれーい!」
「冷たい! 氷の風だぁ!」
兄妹は冷たい風に少し驚いた後、キラキラとした表情で再びインを見つめる。
気分がよくなったインは続けて何種類か魔法を唱える。魔法が発動するたびに兄妹はき歓声を上げたり、興味深そうに眺めたりと反応を示す。
「おいおい……。調子にのって魔法を使っていると、後で魔力不足にならないか?」
オスクは心配そうにインに声をかける。
「大丈夫よ、見た目は派手に見えるけど、そこまで魔力は使っていないわ。仕事で困るような事にはならないわよ」
「そっか。俺も何かできたらいいんだけど、街中で剣を振り回すのもなぁ……」
オスクは腰の剣に触れつつ空を仰ぐ。
人前で剣術を披露するにはこの場所は狭くて危険だ。それ以前に、人通りの多い場所での抜刀は禁止されているわけだが。
次の魔法を期待する兄妹を横目にシェイドの座る噴水の縁に座ることにした。
「いいなぁ、お姉さん。私も使えるようになりたいなぁ……」
インを興味深そうに見ていた少女がぽつりとつぶやいた。
「大丈夫。ヒュミナ族は大小あれど魔力を持っているわ。この程度の魔法なら、初級の学校に行けばすぐ使えるようになるよ」
「そうなんだ。でも今は許可が無いから……」
「……? 今は??」
少女の言葉にインは首をかしげる。この国ではどんな人でも初級の学校には通うよう定められている。貧しい人には支援制度もあるし、孤児だとしても、各地域の孤児院で保護されるはずなので、学校に通うことが出来ないということは無い。
インもその制度があったからこそ、学校に通え、魔法を使えるようになったのだ。それなのに許可が無いと覚えられない?どういう事だろう?
「あ、もう時間だよ。僕ら行かなきゃ!お兄さんたち、さよなら!」
「お姉ちゃん、魔法見せてくれてありがとう!ばいば~い!」
少女はあわてたように手を振ると、兄と一緒に足早に去っていった。
「どうしたんだろう?」
オスクは去っていく二人の背中を眺めながらつぶやく。
「分からない。初級の学校には通える年齢に見えたけど……?」
インも不思議そうに首をかしげる。二人は釈然としない様子だったが、考えても答えは出ない。
「二人とも……そろそろ依頼主が来る時間だ。あの子供たちの事は一端忘れろ」
「……分かったわ、シェイド」
「ああ、そうだな」
シェイドの言葉に二人は気を取り直し、商人が来るのを待つ。
……三人の元に依頼主である商人が現れたのはそれからすぐの事である。
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