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4(side 探索者)

 今は朝、【日の星】が天に向かって昇る時刻、昼と言うにはまだ早い時間帯。


 オリゼの街の中央のヒトや荷車の行きかう大通り……その中央にある噴水の前にヒュミナ族の旅人たちが腰かけていた。食事の途中なのか、膝の上には紙に包まれたおにぎりが置かれている。


「この街はいい街だなぁ。(メシ)は美味いし、宿も安いのにサービスが良い」


「あら? オスク、口に米粒がついているわ」


 腰に吊るした剣は新しく、まだまだ駆け出しの様相の彼は側に居る同じ年頃の少女、インに世話を焼かれていた。


「ここは傍に流れる川を利用した農業で(うるお)っている街だ。アルカディア王国各地で食べる米の大半はここ一帯で育てられている」


 三人の中で一番年長の男、シェイドが二人に説明する。国内を旅していた熟練のスカウト兼レンジャーである彼は、探索者を目指すこの二人の保護者として付いてきている。


「へぇ……そうなのか、シェイドは物知りだな」


「故郷の北方領(セプテヌトゥリシア)とはまた違った雰囲気で面白いわね」


 二人は感心したようにシェイドを見る。


「君たちと出会う前はこの国のあちこちを旅していたからな。訪れた土地の情報は頭に入れるようにしている。地理に詳しいのはそのおかげさ」


 探索者……特にスカウトとしてやっていくにはある程度の地理の知識が必要だ。

 シェイドは新たな街に辿り着いた際は常に周囲の地理や現在の情勢を仕入れるようにしている。いわば習慣のようなものだった。


「凄いわ。私達も見習わないとね、オスク」


「さすがはベテランの探索者。また教えてくれよ、シェイド」


「ああ、構わないとも」


 シェイドはにこやかに笑う。二人はそれを見て、尊敬のまなざしを向けていた。そして、再びおにぎりを美味しそうにほおばり始めた。

 そんな二人を横目にシェイドは先ほど依頼を受けた時に聞いた何でも屋の主人との会話を思い出す。


 ◆


「ここ最近、護衛の依頼を受けてくれるような旅の探索者が来てくれなくてね。本当に助かります」


 依頼を受領した後、何でも屋の主人がポツリと呟いた。


何でも屋の主人(マスター)……それは一体どういう?」


 東の帝国(アンチェルナ)ほどではないが、この国もそれなりに古代文明の遺跡がある。

 この街の近くにないだけで、探索者に憧れ、遺跡がある街へ旅をする見習いや遺跡を研究する学士はそれなりにいるはずだ。


「我々にも原因が分からないのです。探索者を兼業する住人の場合は、時間に余裕があるか、よっぽど報酬が美味しくないと受けてくれないので困っています」


 何でも屋の主人(マスター)は苦い表情で肩をすくめた。長時間になりがちな護衛の依頼が特に多いこの街では厳しいものがあるだろう。


「その事を軍に通報したのか?」


 シェイドは気になっていたことを聞いてみる。


 この街は国境に近い場所にある。有事に備えて王の剣が常駐しているし、過去に隣国による拉致未遂事件が発生した場所でもある。

 拉致(その)の可能性があれば、街を警備する王の盾も黙ってはいないはずだ。


「既にしたさ!|十五年前の事もあるから、念のため常駐している兵士に調査をしてほしいって掛け合ったんだよ!だけど『気のせいではないか?我々は忙しいのだ、またにしてくれ』って一蹴された!」


 どうやら逆鱗に触れてしまったらしい。かなり適当にあしらわれたのだろう、何でも屋の主人(マスター)は顔を赤くし苛立ったように答えた。



「なるほど。悪かったな、こんなこと聞いて」


 シェイドは何でも屋の主人(マスター)に謝り建物を出る。事件の可能性があるのに軍も取り合ってくれないとなると主人が苛立つのも仕方がない。


 ◆


「シェイド、イン、しばらくこの街を拠点にして路銀を稼ごうぜ!」


 おにぎりをすべて平らげたオスクは立ち上がりながら宣言する。

 インは急なオスクの提案に目をぱちくりさせ、考え事をしながらおにぎりを食べていたシェイドは喉に詰まらせたのか咳き込む。


「……ゴホッ!いきなりどうしたんだ?」


「急に叫ぶからびっくりしたわ!」


 驚きながらも、インは水筒を取り出しシェイドに渡す。シェイドは礼を言いながら受け取り、流し込むように飲んだ。


「いやぁ、この辺りは飯も美味いし、宿もよそに比べると安くて良い部屋を借りられるじゃないか。どうだ?」


「確かにそれもいいかもしれないわね、私は賛成よ。昨日泊った部屋は風呂があって最高だったわ。通常料金でお風呂が使える宿なんて中々無いもの」


 探索者が寝泊まりする宿は、寝る場所と物置があるくらいの質素な安部屋だ。ベッドがあればかなり良い部屋になる。大浴場はあったとしても別料金だし、水が貴重な場所ではそもそも存在しない。

 だというのに、三人が泊まった安宿には部屋ごとに風呂が付いていた。体の汚れが気になるインにとってはありがたいものだった。


「二人とも、拠点の話は今回の依頼を終わらせてからにするといい。何でも屋で受けた依頼はここから北の隣町へ向かう商人の護衛だ」


「ああっ! そうだった!」


 オスクは噴水に腰かけると、うっかりしていたと言わんばかりにポリポリと頭を掻く。

 シェイドの言う通り、今回の護衛の依頼は片道で二日ほどの期間を予定している。


「何でも屋の仕事をしないと活動資金が心ともないからなぁ。ここまで来るのに移動費を稼げるような依頼が無かったし」


 パーティ共有の財布の中身はギリギリだ。この街まで来るのに使う予定だった東方領(オリエンティア)行の乗り合い竜車は運休していて、徒歩での移動となったからだ。


「通り道の街で依頼を受け、旅費を稼ごうと思ったのに、まさか常設の薬草採取くらいしかなかったからなぁ」


 オスクは財布の中身を確認し、ぽつりとつぶやく。それを見たインは仕方ないとため息を付いた。


「早く大きな遺跡を調査して稼げるようになりたいものね」


「なら、経験を積まんととな。ある程度実積がなければ大きな遺跡には入れん。今のお前たちには厳しいだろう」


 シェイドは二人に諭すように答える。


 探索者の本分は古代エルナ文明時代の遺跡の発掘(宝探し)。この地域の小規模の遺跡は、現れる魔物は対処しやすい小鬼(ゴブリン)だ。しかし、こういった探索しやすい遺跡の宝は大体撮り尽されている。

 逆に、探索されていないような遺跡には大きめな歪地(ゆがみ)があり、そこから強力な魔物が現れる。それ故に、その危険性ゆえに国の許可が無ければ立ち入ることが出来ない。

 いつかは南の大遺跡を探索できるようになりたいが、実際に探索できるようになるには、ある程度の実績と名声が必要なのだ。


 実力を上げ、名声を得るには何でも屋で着実に依頼をこなしつつ、遺跡を巡って実績を積み重ねるのが手っ取り早い。


「ああ、分かっているって」


「ええ、私たちはもっと上を目指すのだから、こんなところで(つまづ)いていられないわ!」


 二人は意気揚々と返事をする。そんな二人を見てシェイドは苦笑する。


(やれやれ……気負いすぎて空回りしないといいんだが……まぁ、俺がフォローすればいいか……。)


 

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