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アルカディア王国から東、東方領の穀倉地帯にある街、オリゼ。
肥沃な大地に穏やかな気候……ヒトの暮らしやすい地域だが、それ故に北東のアンチェルナ帝国から過去何度も狙われてきた。
しかし、それも過去の話。五年ほど前に国境の壁が建築され、現在では暮らしやすい場所となっている。
万が一のため、王の剣が駐屯していてはいるが、飾りのようなものだ。また、南東側には友好国であるエレナ国に続く道があり、商人の行き来が盛んなこの街はでは、他の地域で見ることのできない商品も市に並んでいる。
付近に遺跡があるが、歪地と呼ばれるダンジョンも小規模。高く売れそうな珍しい遺物は既に取り尽されてはいるものの、住んでいる魔物は小鬼程度でそこまで強くはない。経験を積むにはもってこいの場所。いずれ、南の大遺跡の探索を目指す駆け出しの探索者達に人気の街でもあった。
◆
アルカディア中央区から東方領まで転移魔法陣で移動した我々は、オリゼの拠点で町の様子を窺っていた。
ここは各地に散る王の影の支援部隊が運営している酒場兼宿屋で、我々は自由に利用できるのだ。
「うわぁ!にぎやかな街だね、隊長!」
「おいしそうな匂いがあちこちでしているね!」
宿屋から街を眺めていた双子が同タイミングで歓声を上げる。
「お前達、観光に来たわけではないのだぞ?」
全くこいつらときたら……まぁ、この街の食事はどこも美味だ。浮かれる気持ちは分からなくもないが。
「エドワード様、携行食と少年騎士たちへの食事をお持ちいたしました」
「ご苦労。私はこの後駐屯地へ向かうから、これに書かれていることを頼む」
従業員が朝食を持ってきたので、オリゼにいる探索者のリストアップと、近隣の街の宿を極力引き留めるよう指示を出す。
「承知いたしました」
この二つは、これから行う作戦のための準備と、被害者がこれ以上出ないようにするための措置だ。
「二人とも、私は準備があるからしばらく離れる。その間に朝食を食べつつ、ここに書いてある命令を覚えておくように。それと、この記録用魔道具も使えるようになっておく事」
私はこれから軍の駐屯地へ向かい連携の打ち合わせと、準備をしなければならないことがある。双子には食事と共に、双子への指示を記したメモと記録用魔道具を手渡す。
「はーい。いただきます!」
「かしこまりましたー」
二人は返事をするやいなや食事を始める。
よく言えば素直だが、悪く言うと緊張感がないというかなんというか……ふぅ。溜息が出るな。
「それじゃあ行ってくるぞ」
二人に声をかけ、その場を後にする。
ここから駐屯地まではそう遠くない。少し急ぐとしよう。
動き出せばこの街には戻ってこられないかもしれないし、陛下に頼まれたケーキとやらは先に購入しておくか。
懐には古代遺跡より見つかった魔法の袋がある。陛下から賜ったそれは、中に入れてしまえば外部の影響を受けないという、とんでもない代物だ。
流石にこの魔法袋のような遺物は、大きな遺跡でも早々見つかるものではないが、遺跡から発掘される遺物は便利なものばかりだ。自分で使うも良いが、売ればしばらく遊んでく暮らせる位の大金が手に入る。
それ故に、一攫千金を求める探索者を長期間足止めするのは難しいだろう。
やはり、解決を急ぐべきだな。
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