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「隊長、任務ですか?僕らも行って良いのですか?」


「『ケーキを買って来い』なんて、私たちパシリみたいですね」


 少々考え事をしていると、素振りをさせていたはずの双子がそばに来て任務に関して質問してきた。私と陛下の通信を聞いていたのだろう、歓喜と好奇心が入り混じった表情で私を見ている。

 上官の命令を守らないのは軍務規律違反だが、彼らは急遽私の元に配属されたばかりの子供だ。恐らくは規律に関する座学もまだだのはず。


 ……しかし、ここで甘やかしてしまってもいいものだろうか?いや、ここは厳しく指導していく必要があるだろう。


「私はお前たち二人に素振りを命じていたはずだ。だというのに、聞き耳とは感心せんな」


 威圧も込めて言うと、二人はビクッと体を震わせ、冷や汗を流し始める。


「口の利き方も問題だが、上官の命令に背くは規律違反だ。今回は不問に付すが……次からは無いと思え」


 表情を殺し、淡々と叱りつける。こういう事に関しては最初が肝心だからな。


「ひっ!……失礼いたしました!」


「……隊長、申し訳ありません」


 まだまだ遊びたい盛りの子供に厳しくあたるのは酷かもしれないが、この程度は耐えてもらわねばなれない。


「うむ、以後気を付けるように」


 二人の顔色を窺う限り反省しているようだし、今回の任務についての概要を説明し、終わり次第現地に向かうことにする。時間がかかっては被害が広がる可能性が高い。詳細の指示は移動と並行して行えばよいだろう。


「……さてだ、陛下より調査の命令が下った。任務は行方不明者の調査。我々は実地訓練もかねて東方領(オリエンティア)……まずはオリゼの街へ向かう。急を要するので転移魔法陣(テレポーター)を使用し、続きは現地で指示をする。直ぐに準備しろ」


 任務と聞いた二人は、暗い表情から一転してパッと表情を輝かせる。


「やったぁ! いきなり初任務だ!」


「オリゼって農業が盛んな所だよね、ご飯美味しいと良いなあ!」


 はぁ……。思わずため息が出る。先ほどまでの反省の色はどこに行ったのか。


「このバカ者どもが!遊びに行くわけではないのだ、きちんとせんか!」


「「は~い!」」


 本当に分かっているのだろうか、この二人は? 返事だけは一人前だ。私はつい頭を抱えてしまう。新たな部下を指示不足で危険にさらすような事態にしたくないのだが……。


 私の心配をよそに、二人は私に背を向け何やらごそごそと袋に物を詰め込んでいる。


「おやつ、何もってく?」


「うーん、これとそれはいれておこう。……これはおやつに入るのかな?隊長に聞いてみよ」


 二人がこそこそと話している内容が耳に入り、頭が痛くなる。こいつらは遠足にでも行くつもりか!


「「隊長、バナナはおやつに含まれますか?」」


 そのうえ果物など、一体いつから持っていたのやら。む、その背嚢(バックパック)は私のものではないか!一体いつの間に!?まったく、自由奔放にも程がある。


「……貴様ら、私を怒らせたいのか。それに私の背嚢を勝手に触るな!」


「キャー!怖~い!」


「いいじゃないですか、おやつくらい。じゃ、僕ら先に行っています!」


「あ!待て!」


 怒りで声を荒げる私をよそに、二人はあっという間に転移陣のある中央区方面へ走っていく。

 残されたのは私とおやつまみれの背嚢だけ。本当にままならないものだ。


「全く。あの二人は無邪気なものだ。事前に剣術が使えるのは確認したが、性格は年齢どおりで……」


 本来ならば、現時点でどのような能力を使えるか、得意不得意は何かを把握してから任務へ連れていくべきなのだ。

 しかし、それを行えるほど、我が部隊にはヒトがいない。


 一年前、とある事件で王の影の実行部隊は壊滅状態に陥った。二人があの年齢で王の影に配属されたのもこの件があってなのだ。


 ヒトはそれぞれなにかしらの職業(クラス)あるいは能力(スキル)を持っているとされる。

 また、それは種族に基づくもの、一族に伝わる能力もある。そして、同じ名前の能力(スキル)として呼ばれていても、個人個人で効果が微妙に違う。要は分かっていないことが多いという事だ。


 王の影の入隊条件は私と同じ一族、または一族が持つ同系統の能力(スキル)を持っている事で年齢は問わない。例外はあるが大体そんな感じだ。


 実際にはもう一人部下はいるにはいるが、彼女がその例外で入隊条件の能力(スキル)を持っていない。そのため、この二人を教育するには向いていない。


 ……そもそも、今は別の任務を担当して留守なので仕方が無いのだが。


「彼らがどこまで能力(スキル)を所持し、且つそれを使いこなせるかの確認がまだだな。任務と同時並行でせねばならないのは骨が折れる」


『彼らは戦士として必要な能力(のうりょく)を持っている』と断じた陛下なら、確認するための手段を知っておられるかもしれないが。

 ……分からない事を考えても仕方がないな。


「さて、そろそろ行かんとな。あの様子では、放置していると何をしでかすか分からん」


 私は背嚢を背負い走り出す。

 頭の中で今後の予定と、他軍への通達および連携、新人である兄妹の役割を考えながら……。


7/28 誤字修正

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