思いを込めて 拾
王位継承権。
今回の騒動のはじまりであり、根本的な原因である。
けれど、三太はどこか違和感を覚えていた。
本当にこれがそこまで大事なものなのか、と。
「おう。なんだ、寝てたのか?」
三太がこっそり台所へ顔を出すと文七はそう言った。
文七は水場で食器を洗っている。肉球でどうやって皿を持っているのかわからなかったが、そんなことは現状ではどうでもいいことだ。三太はとりあえず笑みを浮かべてみた。おそらく相当引き攣った笑顔になっているはずだと三太は思った。
「あ、その、申し訳ありません。ちょっと休むだけのつもりだったんですが」
「仕方ねえさ。色々あったしな」
文七は手を動かしたままそう言った。
おそらくは本心から言ってくれているのだろう。それが申し訳なさすぎて三太は頭を下げるしかなった。
あの使用人とのやり取りの後、三太はつい寝転がってしまったのだ。
使用人は三太が無視を決めこんでいた後もしばらく全裸で絡んできたがいつの間にか衣服を身につけ、出ていってしまった。それで気が抜けてしまったのだ。
そのまま寝転がって、寝てしまった。
窓の外はすっかり暗くなっている。腹具合から見て夕飯時すらも随分前に過ぎてしまったんじゃないだろうか。
「腹減ったろ。試作品もいくつか残ってる。どれも美味いから好きなもん食ったらいいんじゃねえか?」
「あ、ありがとうございます」
腹が減っていることもバレてしまった。台所に来る理由としてはそれくらいしかないだろう。試作品の手伝いをしようにも、何故か市村ヨネに反対されたせいで包丁すら握れていないのだ。
それもまた三太が疎外感を覚えている理由の一つだった。
三太はそのまま居間の方へ向かった。
「あ、三ちゃん!」
市村ヨネとジイと呼ばれた使用人がいた。
彼女の手にはカップが握られている。どうやら食後のお茶を楽しんでいるらしい。テーブルには三太が見たこともない料理と食器が置かれている。
「すいません。ちょっと眠ってしまいまして」
「色々あって疲れたのよ。お腹空いたでしょ、ほら食べて食べて」
市村ヨネは満面の笑みでそんなことを言った。これだけの試作品を作る労力は相当だろうに昼寝していただけの三太に対する気遣いに三太は申し訳ない気持ちで一杯になった。
「こちらをどうぞ」
椅子に腰掛けると使用人がカップを差し出してきた。香りは紅茶のそれに近く、淡い赤色の液体が湯気を放っている。香り自体に違和感もなければ、紅茶の見た目にも違和感は当然ない。ないが、三太は手をつけるのを躊躇ってしまった。
差し出した本人に問題があるからだ。
「如何致しました?」
平然とした態度に三太は何か納得のいかない気分になった。いや、そもそも使用人である彼女の妄言を信じるかどうかの話だったが、この顔を見るとどうにも信じるしかないような気がするのだ。
中性的なものすごい美貌と胡散臭さの合わせ技とでも言えばいいのか。
三太はとりあえず文句を言うことにした。
「使用人さんに揶揄われまして。お陰で余計疲れました」
「それは重ねて謝罪を」
「あれも私の一人でして。あれが迷惑をかけたと言うなら私がかけたの同義。誠に申し訳ありません」
三太は文句を言うのを止めた。
これ以上この件に触れることの方がはるかに面倒くさいことになることに気づいたからだ。
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