思いを込めて 六
「でも、会食と言っても何を出すんですか? 僕らは料理人でもありませんし」
「そこは大丈夫。主婦歴二十年を舐めないで」
「いや、それはいくらなんでも…」
三太は市村ヨネの言葉を否定しようと思ったが、初めて会った時のことを思い出す。テーブル一面に置かれた洋菓子は見事なもので、それが彼女の手作りだったと思い出したのだ。菓子作りとは違うだろうがある程度料理の腕前には自信があるのかもしれない。
「それが無難でしょうね。姫様ならば我らの舌もよくわかっていらっしゃる。その上、異世界の食を堪能されているのですから、これ以上ない適任と言えるでしょう」
「いやに褒めるわね、ジイ。そんなに食いしん坊だったかしら?」
「おや。以前の私はそうではないのかもしれませんが、今の私は食に対しては貪欲ですよ? 若い体ですからね、私が色に興味を持てない分誰よりも食に興味はあるのですよ。味見はお任せください」
「…なんか嫌だけれど、まぁ、味見はあんたが適任ね。私の舌もあっちに慣れてるだろうし」
着々と段取りが組まれていく。
この流れの中で明確なことは三太はあくまで下っ端の役割でしかないということだ。実際、食材の皮剥き程度しかできないだろうからそれでなにも間違っていない。三太がこの男をどれだけ警戒しようとも市村ヨネが重要な役割を任せている時点で意味がない。
今の三太の立ち位置は紛れも無い下っ端そのものなのだ。
「ちなみに、あいつは何て言ってるの? その私たちがここにいることについては」
「何も。私から話を聞しても返事ひとつありませんでした」
目の前で交わされる言葉をただ聞くしかない。断片的な情報であっても何かの役には立つかもしれないからだ。
この決戦は市村ヨネと王との一騎打ち。
自身の立ち位置は当然のことであり、出しゃばる道理も理由もない。だから、三太は黙って事の成り行きを見守るほかないのだ。
それが、
「……なんだかなぁ」
三太にとって妙に気に食わなかった。
そもそも、市村ヨネに協力を申し出たのは三太自身なのだ。だから、最後までやり遂げなければならない。
徐々に萎えていく気分を自覚しながら、三太は自分自身にそう言い聞かせる。それでも、どうにも気に食わない自分がいることを無視できない。
「どうしたの? さんちゃん」
「えっ。あ、いや、その」
そんな内心が態度に出たのか、市村ヨネは心配そうな表情で三太を見つめている。三太は動揺してまともに答えることができない。後ろめたさもあって、取り繕うことすらできなかった。
「少し疲れたんじゃねえか? どこか休めるところはねえのかい?」
文七が助け舟を出してくれた。
三太の内心を見通したわけではないだろうが、それでもありがたい。三太は屋敷の主人に視線を向けた。
「もちろんご用意しております。誰か、案内を頼む」
どうやらこの場から離れられるらしい。
三太はほっとしたが、すぐに後悔した。
「それでは、どうぞこちらへ」
現れた使用人は笑っていた。
いや、笑みを浮かべていたと言った方が正しいのだろうが三太には明らかに自身を嘲笑っているように見えたのだ。
彼女は、三太を案内してくれた使用人だ。
嬉しそうに三太が来るのを待っている。
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