思いを込めて 五
「ふざけないでください。貴方は他人に魂を見せろと言うんですか?」
三太は自身が冷えていくのを感じた。
極端すぎる物言いだと言うのは自覚しつつも、侍に対して何も関係のない人間に刀を見せろという言葉は許せなかった。侮辱と言い換えてもいい。もちろん、相手が異世界人であると言うことを加味してもこんな得体のしれない男に見せたくもなかったのだ。
「魂ですか。なるほど、これは失敬。いえ、重ねて謝罪を。どうにもこの私は好奇心に動かされすぎるきらいがあるようでして。思ったことや気になったことをすぐ口にしてしまうのは悪癖としか言いようがありませんな」
本当に申し訳ありません、と男は笑みを浮かべて言う。
だが、その目が笑っていないことに三太は気付いていた。というか、この男自身が隠すつもりもないのだから当然なのかもしれない。
胡散臭い上に信用ならない。
三太はこの男に対しては躊躇ってはいけないと改めて腹を決めた。
「ジイ、そういう真似はやめてって言ったはずよ。ごめんね、さんちゃん。こいつはどうしても言うことを聞かなくて」
それまで沈黙を保っていた市村ヨネが言った。
男に向ける視線は鋭く、声音も冷たい。けれど、どこか優しげである。
昔からの付き合いというやつなのだろうが、だからと言って用心することにこしたことはないと三太は結論づけた。
「いえ。僕も少し言い過ぎました」
三太の謝罪は場を繕うための方便である。
男の方もそれに気付いているだろうに、また「重ねて謝罪を」と言った。
「さて。場の雰囲気も和んだことだし、本題に入るぞ」
文七は言う。
和んでないと三太は思ったがこれ以上時間を無駄にするつもりもなかったので何も口を挟まなかった。
「今回の目的はあくまで和睦だ。ガチンコの殴り合いはもうしたし、これ以上無駄な争いはする必要はねえ。あの王様を納得させて、ついで三太の王位継承権も返しちまう。ただし、あの屋敷はこれまで通りに市村ヨネのものとして扱うことって条件でな」
そう、これが文七の計画だった。
宣戦布告からの戦闘、その後の和睦。
この一連の流れのために市村ヨネに手紙という形で対話を行なったのだ。
流石に奇襲を受けるとは予測できなかったが結果として最短でこの流れまで持ってくることができた。
文七が王との対話で言った三ヶ月後の決戦とは会食による和睦会談を行うということである。そのために文七が王に対して食事作法の本を渡し、全員で食材の買い出しと食材の討伐までやっていたのだ。あとは会食に出すための料理をどうするのかという段階まで来ている。
「でも、本当に和睦会談なんて成り立つんですか?」
つい、三太は口を出した。
思い出すのは先日のこと。いきなり攻め込んできた上に暴れに暴れた姿は明らかに和睦なんて生やさしいことを受け入れるようには思えない。確かに最後はしらけていたが、あくまで三太の一振りの後だったからでしかない。和睦という話になれば、また火がつくんじゃないだろうかと三太は思った。
「重ねて謝罪を。我が主人は戦狂いであるのは間違いありませんが、決して暴君の類ではありません。国益を考えての行動をとられます。王位継承権は何より国家の根底に関わる事案。条件としては問題があるとは思えませんね」
意外なことに男が文七の意見を肯定した。
自身の主人を擁護したと言えばそれだけだが、どうにも胡散臭い。言葉に胡散臭さが滲まないあたりが逆に何か落とし穴があると物語っているのではないかと三太は疑った。
そんな三太の疑念を感じ取ったのか、文七は、
「やるしかねえんだよ。おれらが打てる手はそれだけだ。真正面からぶつかれば物量で潰される。三太がいても繰り返されればそれで終わりだ。泥沼の消耗線になったら、結局数が多い方が勝つって決まってんだからな」
と言ってやるしかないと三太に言った。
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