思いを込めて 参
黙々と野菜を剥く時間は、何故かとても心が安らいだ。無心で一つの作業に没頭すると言うのは存外悪くないのかもしれない。三太は山のように積まれた籠の中身を全て剥き終え、残った皮を袋にまとめた。
そこで、三太はゴミ袋をどこにおけば聞いていなかったことに思い至った。包丁を水を貯めた桶のようなものに入れ、使用人か誰かを探すことにした。
「どうかなさいましたか?」
と。
いつの間に現れたのか。
三太の意識の死角をつくかのように、声だけでその存在を知らせてきた。
「ああ、いや、すいません。ゴミをどこに捨てればいいのかわからなくて」
三太は正直に話した。
自分でも驚くほど冷静な返事だった。
全身に立った鳥肌と吹き出す冷や汗には気づかれただろうが、それ自体は些細な問題だった。
一番の問題は、三太が敵意を抱いていることがバレること。
もちろん、敵意を抱いていることはわかっているだろうがそれを確信されるのがまずいのだ。
ここは敵地のど真ん中。あくまで、味方同士とお互いを欺いているに過ぎない。
自身の立ち位置を三太は理解している。
この屋敷の主人と市村ヨネは旧知の間柄。三太は市村ヨネに連なる客人ではあるものの、所詮は外部の人間だ。極論、彼らからすれば死んでいようがいまいがどうでもいい存在であるはずだ。
なのに、この使用人はあえて三太の隙をついた。
その行為は三太にある事実を突きつけていた。
余計な真似をするな。
だからこそ、三太は正直に答えたのだ。
余計な真似をすれば殺すと使用人は暗に言っているのである。
「でしたら、お気になさらずに。私どもが片付けます。姿は見えずともあなた方のことは見ておりますので」
「…そう、ですか」
怖い。
直接的な言葉はもちろん、視線の圧がものすごい。丁寧な言葉遣いとは裏腹に表情は真顔のまま変わらない。十分美人に分類される顔立ちなのに、人形のような不気味さが全面に押し出されている。
いや、もちろん、それだけではない。
「あの、妹さんなんですか?」
「妹、ですか? 私は使用人ですが」
初めて彼女が無防備な表情を見せた。
それが作為的なものではないと三太は思い込むことにした。でなければ、続きの言葉を言えなかったからだ。
「だって、君の主人と同じ顔をしているじゃないですか」
胡散臭い男。
この屋敷の主人である男と瓜二つな顔をしているのだ。女性としても美人にしか見えない顔立ち。肉体的な特徴は紛れも無い女性である。三太はあえて見ないようにしていたが、肉体の線を強調する服装は明らかに扇情的すぎる。髪型も女性らしさを強調した艶やかな長髪。
それだけなら目の保養として風景の一部と認識することができた。
けれど、どの使用人も全く同じ顔をしているのだ。
三太にとって恐怖以外の何ものでもなかった。
「残念ですが、私は妹でもありませんし、あれは兄でもありません」
自然な口調で彼女は言う。
それと同時に、初めて笑顔を浮かべた。
「あれも私なんですよ」
目を見開いて、口元は三日月のように裂けさして彼女は笑みを浮かべている。
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