思いを込めて 弍
この言葉は二度目だ。
三太自身が望んだこと。
お互いが繋がった時に三太自身がはっきりとそう言ったと市村ヨネは言う。
それ自体が、三太にはまるで信じられなかった。
「あの、ずっと思っていたんですけど」
「ん、なにかしら?」
「僕と貴方が繋がった時っていうのは王位継承権をもらった時のことですよね」
「もちろん。さんちゃんが私の赤ちゃんになった運命の時♡」
三太は全力で逃げ出したくなった気分を無理やり抑えこんだ。これでは前回と同じことの繰り返しだ。ようやく状況も落ち着いてきたし、この言葉の真意をつかんでおきたかった。その答えが三太の望む答えであろうとなかろうと構わなかった。
ただ、なぜか、そこを見落とすと全てが無駄になる気がしたからだ。
「僕が見たのは子供が僕を睨んでいる風景です。それ以外は真っ白でよくわかりませんでした」
その時のことを三太は思い出す。
真っ白な風景の中に男の子 / 女の子がいた。何かを訴えるようにまっすぐ見つめてくる瞳の真意はまるでわからなかったが、どうしても気になってしまっている。
この感覚をうまく言語化できないため、三太はありのままのことを伝える他なかった。全て事実でしかないのだが、三太自身が発言の内容の曖昧さに違和感しか覚えなかった。
なにか、大事なことを忘れているような気がする。
「それは」
今度は市村ヨネが言葉に詰まったようだった。
というか、市村ヨネは両手で口元を抑え続く言葉を無理やり止めたようだった。あまりといえばあまりにも露骨な態度に、三太はどう反応すればいいのかわからなくなった。
急な沈黙。
なぜか、痛いほど重く張り詰めた空気が場を支配した。
三太が何か言えばそのままこの場が流れてしまい、また振り出しに戻るという確信があった。だからこそ、沈黙を選ぶしかなかった。
市村ヨネは三太の思惑などわからないのだろうが、なぜか頑なに言葉を発するのを拒否している。未だに口元を押さえ込んでいる時点で余程話すとまずいことがあるのだろう。
だから、三太は沈黙のまま言葉を待った。
この雰囲気に屈して、彼女が何かを言うのを期待して。
「何してんだ、お前ら」
見つめ合うこと数秒。
永遠に続くかと思われた沈黙は文七の横槍であっさりと崩れ去った。
文字通りの横槍である。文七は三太と市村ヨネの間に割り入るようにして、場の雰囲気を崩しにかかったのだ。
「文七さん。あの、今、大事な話をしているところでして」
「あ? 乳繰り合うのが大事だってのか? お前さん、やっぱりマザコンだったのか、あ?」
三太の訴えに文七は何故か当たりの強い言葉を繰り出してきた。
迫力もすごい。猫が威嚇する時の顔そのもので三太は引くべきだと本能的に察した。
いや、でもなんでこんなに怒ってるんだ、この人?
「おら、全然仕上がってねえじゃねえか! とっと剥けや! 無心で剥け! 時間はねえんだぞ!」
文七から無理やり責め立てられて三太は大根らしき野菜と向きあった。確かにカゴいっぱいの野菜がそのままだ。とにかく剥いて剥いて剥きまくろう。
三太がせっせと手を動かし始めたのを見て、文七は市村ヨネに視線を移した。そこのころには市村ヨネも平時のそ態度に戻り、芋を剥き始めている。
「お前さんは来な。あの胡散臭いのが呼んでるぜ」
「ジイが?」
「ああ。なんでもあのオオトカゲのことで話があるらしい」
文七の後に市村ヨネはついて行った。残されたのは三太のみ。これは、あれだ。
「…おれがぜんぶやれってことね」
籠の中いっぱいにつまった芋のような野菜と大根のような野菜。いつも通りの自分の役割に、三太は深く息を吐いた。
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