思いを込めて
「ジイとの関係性? 物心ついた頃からの世話係だったの。ああいう胡散臭さはあるけれど、私は信頼してるわよ? もちろん信用してはいないけれど」
芋のような野菜を剥きながら市村ヨネはそう言った。ちなみに、三太は大根のような野菜を桂剥きしている。
男の言葉に嘘はなかった。屋敷にある食材は何を持っていっても使用人らしき人から文句を受けなかったし、市村ヨネから足りない食材の買い付けを命令されてもひとつ返事で出て行った。
「信頼してるのに信用していない、んですか?」
「ええ。あいつは自分が楽しいと思うことに対しては力を貸してくれるわ。今回なんて最たるものでしょうね。私と父との親子喧嘩なんてそれこそ何十年ぶりの見どころだろうし」
「それのどこが信頼できるんですか?」
「面白いことには対しては忠実なところ。けれど、最後に自分が最も得するように行動するところが信用できないところなの」
「…はぁ。なんというか、本当に蝙蝠みたいな人なんですね」
「そうなの! しかも性質が悪いのがこっちの一番嫌なことを秘密にしてるとこね。まさかあいつと一緒に監視してるなんて、ほんとに最悪…!」
監視。
三太は市村ヨネの屋敷に行った時のことを思い出す。球体上の機械との対話。というか、彼女自身がそう言っていたじゃないか。
そのせいで三太はこの親子喧嘩に巻き込まれる羽目になったのだ。
そう、王位継承権を無理やり渡されたせいで。
「今更ですけど、なんであんな真似をしたんですか?」
「なんのこと?」
「僕に王位継承権を譲ったことです」
む、と市村ヨネは妙な顔をした。言葉に詰まったらしい。
「…運命、かな?」
「嘘つかないでください」
「本当よ! まぁ、初めは勢いというかなんかそうしたらあいつらも困るかなーってくらいの気持ちでうやったことだけど」
やっぱりか。
なんとなくヤケクソの行動だったんだろうなぁと三太も思っていたが、実際にそうだと言われると肩を落とす他ない。呆れる気持ちももちろんあったが、昔からそういう間の悪さというか巻き込まれることが多い気がする。
社会人になってからも学生の頃も厄介ごとのせいでどれだけ苦労したことか。
「もう! 落ち込まないで、さんちゃん! ママが慰めてあげる!」
「いや、だからママじゃないでしょ」
突然のママムーブにも三太は冷静に対処した。
これまでは言い出すタイミングなかったせいで文句も言えなかったが、この機会にはっきりと三太の考えを伝えることにした。もちろん市村ヨネのヤケクソの行動もせいでこんな状況になっているということに対する抗議もするつもりだった。
が、
「あら? さんちゃんが私になってほしいと言ったのよ?」
そんな記憶の捏造を堂々と言われてしまい、今度は三太の方が言葉に詰まってしまったのだった。
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