下ごしらえ 拾参
「なんだか随分と若返ったみたいじゃない」
「手厳しいですな。前の私は主人に見限られたようで。やはり、老いというのは避けられぬ障害ということなのでしょう」
「ふん、よく言うわね。老いも死もあなたには関係ないでしょうに」
「いいえ。今の私にとっては恐ろしい未来ですよ。もちろん、私にとっては別ですが」
むしゃむしゃと三太が食事へ意識を集中することを決めたとほぼ同時に、市村ヨネが動いた。
それまではお互いを無視していたはずなのに、市村ヨネと男は親しげに会話を始めたのだ。王とその娘。つまりは、市村ヨネはお姫様の立場に当たる。
側近を名乗った男は敵対する立場であると同時に旧知の間柄であるはずだ。だから、この状況自体はおかしくはない。おかしくはないのだが三太はどこか違和感のようなものを感じていた。
なんというか、いくらなんでも距離が近すぎるような気がするのだ。
少なくとも、味方に近い立場にしか見えない。
「それで? あいつは今何してんの?」
「王の間に引きこもっております。あのお方なりに思うところがあるのでしょう」
「そ。当然、私たちが来たことは」
「知っておられますよ。隠す必要もないと思い、私が報告しました」
「ほんと、あんたっていい根性してるわよね。あたしに対する忠誠心はないってわけ?」
「もちろん。ですが、私は主人にも忠誠を誓っていますので」
「ふん。蝙蝠って知ってる? こっちの世界で一番嫌われている生き物。あんたはまさしくそれよ」
「さて? よほど監視していたことが気に食わなかったのでしょうか。では、重ねて非礼をお詫び致します」
三太は小皿に伸ばしていた手を止めた。今の言い回し。初めから感じてたい胡散臭さの正体に気づいたのだ。
あの球体の中身。
市村ヨネに重傷を負わせた時に聞いた声と言い回しそのものだ。つまり、あれはこの男がやったことということで、紛れもなく王の側近なのだろう。というか、死んだとか言っていた気がするのだが。
「当たり前でしょ。味方だと思ってたのに裏切られたんだもの。心底腹が立ったわ」
「重ねて謝罪を。今でも私は貴方の一番の味方のつもりですよ」
「蝙蝠」
「重ねて謝罪を。蝙蝠がわからないので特に何も思いませんね」
親しげ(?)な会話の中でより関係性が鮮明になっていく。市村ヨネにもこの男にもお互いの関係性を隠す意図はまるでないようだった。蝙蝠という言葉の意味を三太は当然正確に理解している。
つまり、スパイの類ということだ。
それも二重スパイ。
小説か芝居かでしかお目にかかったことのない人種であるということか。
「重ねて謝罪を宴もたけなわではありますが本題に入ろうかと思います」
突然、男はそう言った。
市村ヨネとの対話がジリ貧にしかならないと感じたのかもしれない。周囲の意識が自身に集まったことを確認し、
「先の討伐により害獣の肉とこの屋敷内にある厨房施設はいつでもご利用いただいてかまいません。他に必要なものがあれば要望によりご用意もさせていただきます。資金に関しても当方が負担しますのでご安心ください。三ヶ月後の食事会に向けて、万全の準備をしていただければと思います」
突然の大盤振る舞い宣言。男はその後に注意を付け足した。
「我が主人を満足させてください。出来なければ、戦争ですので。まぁ、その方が私個人としては好みですがね?」
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