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下ごしらえ 拾壱


 三太は脱力感に苛まれたまま、仰向けに寝転がった。

 地面の感触。血の海が消え、暗澹たる雲が視界一面に広がった。

 こんな雨雲のように見える空なのに、どうして雨が降らないのかが不思議だった。いや、そもそもこの地面だって三太の世界にあるそれとは違うのかも知れない。

 そこまで考えて、ふと周囲の光景が気になった。

 もちろん見ていたはずなのだが、巨大な爬虫類とのごたごたのせいでろくに印象に残っていないのだ。周囲の光景を覚えていないなんてことは初めてではなかった。というか、鍛錬において記憶が飛ぶことも日常茶飯事だったのだ。三太は起き上がり、せめてこの場所の光景くらいは記憶に留めようと思い、


「あの、文七さん?」


 あり得てはいけないものを見てしまった。

 

「お、どうしたい?」


「いや、気のせいじゃないと思うって言うか、明らかにそうだっていうか」


「んん?」

 

 不思議そうに首を傾げる文七。

 三太自身ですら自分の言動があり得ないほど動揺していることを自覚している。けれど、この事態の急展開に三太自身がまるでついていけていないのだ。

 周囲には赤い血の海と爬虫類の肉塊が無数に飛び散っている。もちろんそれだけがあるわけじゃない。青々とした木々が生い茂り、遠くには山々が広がっている。巨大な爬虫類はその峰を踏み越えながら襲いかかってきた。市村ヨネは空を飛び回り、巨大な爬虫類を千切っては投げていたのだ。

 その木々の合間。

 身動ぎひとつすることなく、全身を鎧で纏った無数の人間がいた。全員が武具と思しき棒状のものを差し向けている。不気味だったのは三太が一切の殺気を感じれないことだ。どころか、気配もほぼ薄れており、その気になれば三太が気づく前に息の根を止めることができたはずだ。

 相当の使い手。それが無数にいる。

 兜だけではなく面まで被っているため表情を窺えないが、決して味方ではないだろう。


「囲まれてます、よね」


「ああ。なんだ、今気づいたのか。はじめっからいたぞ」


「えっ」


 衝撃の事実に三太はまた言葉を失ってしまった。

 というか、はじめからわかっていたのならなんでこんな真似をしたんだろう。

 ここは敵国だ。

 敵地で現地軍と遭遇する状況自体がすでに最悪な状況であることをわかっているんだろうか。いや、わかっていないはずがない。ないが、


「ああ、なるほど。あいつらにも手伝ってもらえばいいのか。流石にこれだけの散らかっちゃ集めるのが面倒だもんな」

 

 どうにもトンチンカンなことを言う。お前頭いいな、とか冗談としか思えない言葉を文七は言う。三太はもう何を言えばいいのかわからず、ただ呆然としていたが。


()()()()()()。いやはやお見事です。まさか全滅させてしまうとは。些かも衰えていないようで安心しました」


 そんな胡散臭いセリフと共に。

 妙な男が現れた。

 

 

 

読んでいただきありがとうございました!

明日も投稿予定ですので、また見てください!

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