下ごしらえ 拾
「ひのふのみ…はは、こんだけあれば実験にゃ困らねえな。いや、試作かね? ま、とにかく大漁だな」
にゃははは、と朗らかに笑う文七。
目の前の惨状を目にしてよく笑えるなと三太は呆れるしかなかった。
死屍累々。
巨大な爬虫類の肉塊と血の海が広がる地獄絵図。まだ出来上がったばかりで悪臭は広がっていないが、まもなく立っているのも困難な状況になろうだろう。いくらなんでもやりすぎなんじゃないかと三太は市村ヨネを睨んだ。
「あー、ひっさしぶりに気持ちー♪」
市村ヨネはこれまでみたこともないような溌剌とした笑顔を浮かべていた。
この状況で笑顔を浮かべる神経が到底理解できない。しかも、この笑顔で巨大な爬虫類を千切っては投げと繰り返していたのだから、三太が彼女に対して抱いていた人物像は大幅に修正しなければならないだろう。
というか、なんで急に光出したんだこの人?
「なるほどなぁ。お前さんらはホームが一番強いわけだな? あっちは随分と過ごしづらかっただろ?」
「そうでもないわ。あっちの方が水は美味しいし、お菓子もこっちよりもずっと美味しかった。それに、あの人と出会えたんだもの。こんなところにいるより、ずっと良い」
惚気全開である。
流石の文七も肩を竦めて苦笑するしかないようだった。
いや、ちょっとまて。今の会話はいくらなんでもおかしすぎるだろ。
「おい、三太。何呆けてやがる」
不意の言葉に三太は応じることができなかった。
取り繕うとしたが、そんな余裕を奪い去るかのように嫌な予感が頭の中を埋め尽くす。数秒間逡巡した後、
「あの。文七さん、ここってもしかして」
「ああ。こいつの元いた世界だ」
そう言って文七は市村ヨネを指した。
いや、何言ってんだこの人。
「あの、えっと、は?」
「んー? ああ、そういうことか」
文七は三太の言いたくても言葉にできないことを察したのか、
「異世界にようこそ。ってか?」
そんなふうに言って芝居がかった仕草を見せた。
「いや、そう言うことじゃなくて…」
三太は言いたいことがありすぎて頭がくらくらした。そもそもこんなにあっさり異世界に行けるのか、とか。なんで敵の世界に来たのかとか。そもそも食材として手に入れるはずなのにここまでぐちゃぐちゃでどうやって回収するのかとか。
そのどれもがどこか的外れで、普段なら無視すべきことでしかなかったがただ黙っているのが正しいのかも判断すらできなくなっていた。
というか、この猫は本当に。
「少しくらい説明してくれても良いじゃないですか…」
三太はそう言って座り込むしかなかった。
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