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下ごしらえ 六


【ここが、あの猫の根城か…】


 歩くこと四半刻。

 三太と瀬菜は言葉通り文七の屋敷に帰ってきた。

 道中の会話はほぼなかった。ヨシツネは最後まで疑っている様子だったが、門を目の前にしてようやく信じてくれたようだった。

 

「あの、中に入らないんですか?」


【ひゃっ!?】

 

 ええ、なんだ今の…。

 真っ赤な顔をして睨んでくる姿に三太は半ば呆れるしかなかった。明らかに怖気付いている。これまで三太が抱いていた印象とはまるで異なる姿。そこまで文七が怖いんだろうか。

 というか、そもそもの話。


「一度、来たことありますよね。というか、屋敷の中に入ってたし」

  

 どうして、一人で文七の屋敷に乗り込まなかったのか。

 あれだろうか、もしかすると一人で乗り込む勇気がなかったんだろうか。間抜けな話だが、この様子を見ればあながち間違いではないんじゃないだろうかと三太は思う。それとも、重度の方向音痴なんだろうか。それはそれであり得そうである。


【ああ? 何言ってんだ、お前。結界張られてんだから無理に決まってんだろ。あん時は猫のやつが結界を外したから入り込めたんだ】

 

「え? そうなんですか?」


【あのクソ女神の炎のせいだろ。じゃなきゃ、誰もあいつの根城を見つけることすら出来ねえさ】


 ヨシツネはどこか自分に言い聞かせるように話している。どうやら気合いを入れ直しているらしい。饒舌に語るので色々聞いてしまったが、ある種の疑念に近いものが確信に変わる手応えを覚えていた。

 

 ようは、文七はヨシツネの敵側だということだ。いや、明確な敵ではないのかも知れないが決して味方とは言えない関係性であるらしい。

 そんな人物をのこのこ連れてきてしまったことにしくじったという思いが浮かぶが、そもそも勇者の敵という時点で文七の方に非があるのではないかとも考える。なんでも勇者は絶対正義というやつらしいのだから。


【そうさ。おれが猫を追い詰めたんだ…! ここでしくじるわけにはいかねえ、なんとしても猫のやつから情報を搾り取ってあのおっさんの鼻を明かしてやるんだ…っ!】

 

 考え方が三下のそれだった。

 本当に絶対正義なんだろうか。三太はこれ以上門前で問答するのは時間の無駄だと思い、中に入るよう促した。瀬菜はとっくの昔に荷車と共に中に入っている。おそらくは蔵の方に向かい、食材を収納しているはずである。とりあえず、ヨシツネを文七へ案内した後に手伝いに行こう。

 今後の行動の段取りを頭の中で整え、三太は門を潜ると、


「おう。珍しい組み合わせだな」


 玄関口で文七が待ち構えていた。

 どうやら三太たちがくるのを察していたらしい。案内する手間が省けた。三太はそのままヨシツネを引き渡そうと振り返り、


【よう、クソ猫。覚悟は出来てんだろうな】

 

 さっきとは打って変わって真剣な表情を浮かべていることに気づいた。

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