下ごしらえ 四
「そういう嘘は嫌いだな」
「…なんですって?」
しまったと三太は失言を悔やんだ。普段なら決して踏み込むこともないのに、このどこか牧歌的な空気に当てられてしまったらしい。
がらがらと小気味よく響いていた荷車の音が消えた。
燃える瞳に強烈な意志が込められている。真正面から見据えられて、三太まで足を止めてしまった。
「嘘って何よ。あんた、あたしが嘘をついてるっていうの?」
「うん。だって、瀬菜が言ったことが本当ならここにいるはずはないから」
「どういう意味?」
「瀬菜がその気なら、自分で探しにいくはずだよ。誰かから与えてもらうまで待つなんてらしくない」
三太の知る彼女は、決して待ちの姿勢をよしとする人物じゃない。
気になるものがあれば自分自身で見なければ気が済まない。欲しいものがあれば思い立った瞬間には動き出している。ある意味商人の性に近いものだと学生自分には思っていた。…だから、三太と再開した初日から距離感がバグった行動もある意味理解できるものだった。
もちろん、三太に対する好意だけでの行動ではないだろう。
もしかすれば、瀬菜の言葉が真実で三太が燃やすべき相手なのか見定めていただけということもあり得るが。こうして三太が生きていることを考えれば、それはないだろうと判断できた。
「…ふん、あんたあたしのことをそんな風に見てたんだ」
「ああ。いつも最短距離で突っ走って行くから追いかけるのも大変だった。三喜夫や僕たちがどれだけ後始末に奔走したか」
「それは、まぁ、悪かったわね。正直感謝してる」
瀬菜が珍しく礼を言ってきた。それを見て、三太は何故かほっとした。
「うん。やっぱり、瀬菜は瀬菜だ」
「は? なに、今のやりとりだけであたしのことをわかったつもりになってるわけ?」
「まさか。もっと教えてよ、色んな君を知りたいんだ」
「…あんた、それも本気で言ってるわよね。なに、ジゴロにでもなるつもり? やめといた方がいいわよ。そんな臭い台詞で釣れる女はいないから」
「ひどい言いようだね」
緊迫した空気がようやく和らいだ。
がらがらと荷車の音が再び響き、柔らかい風が頬を撫でる。
文七に頼まれた食材もほぼほぼ集まった。あとは屋敷に戻るだけだが、何故か、三太も瀬菜も最短での道を避けるように足を進める。
学生時代の話だけではなく、社会人として働き始めたころの話。家業を覚えるためにお互い連絡をとれていなかった期間での出来事。話題がないかと思えば、尽きることもなく。穏やかな時間が続くと感じていたが、
【見つけたぞ、お前、猫と一緒にいたな!】
そんな頭に直接響く声に足をとめた。
え、誰?




