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下ごしらえ 弍


「野菜、野菜、野菜、肉、野菜、野菜、肉、肉、塩…」


「黙って買い物しなさい」


 三太は街路に面した屋台から食材を買い漁る。

 値切りなんて無駄なことはしない。全て値札の価格のまま銭を渡し、瀬菜が引いている荷車へと乗せていく。すでに三つの籠いっぱいに野菜が積まれているが荷車自体は水平を保ったまま。華奢にしか見えない肉体のどこにそんな力があるのか三太には皆目検討つかなかったが、何も考えないようにして食材の買い入れを続けていく。

 

 全ては文七の指示だ。

 

 なんでも決戦に向けての下準備らしい。

 三太には皆目理解できなかったが、市村ヨネと瀬菜は違うようだった。市村ヨネは文七の指示に従って屋敷に籠っている。瀬菜は瀬菜で困惑する三太を引きずって食材の仕入れを始めてしまった。

 最初は市場へ。次に商店へ。そして、近隣の村から来たらしい農家の屋台まで。

 目当ての食材を的確に手にいれているのは文七ではなく瀬菜の手腕だ。文七はあくまで食材の名前が書かれた紙を渡してきただけ。内容を一瞥しただけで、ここまで的確に案内出来る瀬菜を三太は素直にすごいと思った。

 いや、あまりに順調過ぎて不可解に思えるほどである。

 食材も名前も碌に知らない三太が適当に食材をとっても何も文句を言わないので故意に違う食材を選んでみたこともあったが、あっさりと違うと否定されたこともあった。

 

「ねえ、瀬菜」


「ん。なによ?」

 

 がらがらと荷車を引く音。天気は快晴な上に風が穏やか。ここ数日の出来事と比べてあまりに牧歌的すぎる状況に三太は居心地の悪さを感じている。もちろん、三太ではなく瀬菜が荷車を引いていることも原因の一つなのだが。

 

「誰も気づいてなかったね」


「でしょうね。普通はそうだもの」


 がらがらと荷車を引く音。

 瀬菜のそっけない言葉に三太は何も言えなくなってしまった。

 話したくないという雰囲気を感じたのもあったが、至極当然のことと言われればそれまでだという思いもあったからだ。

 

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 太陽の輝きと言っても過言でもないほど炎が燃え盛っているのに誰もそれを指摘することはなかった。どころか、おそらくは気づいてすらいなかったのだろう。

 通りを過ぎゆく人々も、会計をした人も、気持ちのいい売り文句を叫んでいた人も。

 その事実は当たり前と言えば当たり前だ。

 こんな状態になったと知られたら、いくら元級友とはいえ噂話の一つくらい聞こえてくるはずである。その片鱗すらなかったのだから、隠されていたのだろうと思っていた。それは違ったのだ。

 より、もっと謎めいている状況になっていたのだ。

 

 三太は瀬菜のことを何も知らない。


「ねぇ、瀬菜」


「だから、なによ」



「もっと、君のことを知りたい」

 

 一言。

 三太は言った。

 

 


 

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