下ごしらえ
「うえーん、ママ怖かったよー」
あまりに白々し過ぎて硬直してしまった三太を市村ヨネは抱きしめる。嘘泣きというにもぶりっ子というにもわざとらしすぎて三太はどう対処していいのかわからない。つーか、ママじゃないし。
父親との対面。
しかも、戦闘までこなした上でのこれである。神経が図太いというか頭のネジが抜けているというか、なんというか。三太は今更になって彼女のために刀を振るったのは間違いだったんじゃないかと後悔した。
「おいおい、何鼻の下伸ばしてんだよ」
にやにやと文七がからかい半分で言ってきた。
三太は自分がどんな顔をしているのかわからなかったが、とりあえずげんなりした感が伝わるように見つめてみた。文七はただを肩をすくめるだけである。
「あの、結局、どういうことなんですか?」
これ以上文七を見つめても話は進まないと三太は自身の疑念を口にした。もちろん、市村ヨネを引き剥がすのを忘れない。瀬菜の視線が鋭さを増していることにも三太は気づいていたのだ。無言の圧というのは行動でしか解消できないのだ。
「あ? 話は聞いてただろ」
「いや、だから、なんというか。戦うって話じゃありませんでしたっけ?」
「ああ。だから、決戦の日時まで決めたんじゃねえか」
んん?
どうにも会話が噛み合わない。文七がわざと惚けているのかと思ったが、そういう感じでもないことに三太は妙な気持ち悪さを覚えた。
もしかすれば自分が間違えているのかとも思ったが、三太が記憶を遡っても答えは出なかった。
「サンちゃん、わかんないの?」
「あの、サンちゃんはやめてください」
三太と文七の微妙な雰囲気を裂くようにように、市村ヨネは横槍を入れてきた。三太はある意味助かったと思ったが、やはり市村ヨネの距離感に戸惑いしかない。呼び方一つでも譲ればそのまま思い通りにされる気がする。さっきまでは緊急事態ということもあったので気にならなかったが三太は改めて線引きをしっかりしようと思い直した。
それで市村ヨネとの関係に弊害が出る可能性も考えたが、
「サンちゃんのいけずー」
改めて線引きの重要性を確信した。見た目は少女でも人生経験に関しては三太が知るどんな人物よりも豊富なのだ。拗ねたように見せて三太を観察するような視線にどう対処すればいいのか、三太にはわからない。
「猫さんはね、私とアイツが公平に戦える戦場を作ってくれたの。暴力じゃ絶対に敵わないから」
「それは、わかってますけど」
三太は頭に浮かんだ言葉を飲み込もうとしたが、その行為が無意味だと思い、そのまま口にした。
「けど、食事会が戦場になるんですか?」




