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勇者とは 玖

『所詮、貴様は腰抜けか』


 心底侮蔑しきった目。

 虫かゴミを見るような視線が三太を見下ろしている。

 間違いなく死に体だった姿も、五体満足の健康体そのものに戻っている。あれだけ燃え盛っていた炎は何事もなかったかのように消え去っている。

 焼け崩れる艦隊や砲撃によって崩壊した建築物すらも元に戻っている。


【どうなってやがる…?】


 ヨシツネが困惑した表情を浮かべている。瀬菜は苦虫を潰したかのような険しい表情を浮かべ、文七はどこか感心したような表情を浮かべているように見えた。

 さっきまでばらばらになっていた人物たちが、何事もなかったかのように元に戻っているのだ。


 三太の一振り。

 

 けれど、それは三太が望んだ結果とはまるで違う状況を生み出してしまった。


「瀬菜っ!」


 文七が叫ぶ。

 直後、猛烈な熱波が三太の頬を撫でる。

 赤い炎が空に登るのを視界の片隅で捉えると同時に爆発音と衝撃が降り注ぐ。砲撃。三太は状況を正確に理解しながら、動けずにいた。

 

「あんた、ほんと邪魔…っ! なにもしないなら帰ってくれないかしら…っ?」


【う、うるせえ! ああ、もう! 本当どうなってんだよっ!】


 再度爆発音。衝撃波も再度襲ってきたが、弱まっているように感じた。

 瀬菜の炎で砲撃を焼き、遅れてヨシツネの能力で空の艦隊を支配したのだ。全てが元通り。先ほどまでと違うのは、


『ほぉ。小僧…いや、小娘か。小賢しい術だが、なるほど、貴様も中々悪くない』


 目の前に、映像で対面していた相手がいることか。

 

『それで、貴様はいつまで我を拘束するつもりだ? 先ほどのことといい、どこまで臆病になればここまで恥知らずな真似が出来る?』


 見下ろす視線は侮蔑の色を増している。

 三太は反論することもできず、ただ残心の姿勢を崩せずにいた。

 

 不完全な一撃だった。


 そもそもが何もかもが足りない状況だった。けれど、あそこでやらなければなかった。

 だからこそのこの結果。

 あそこで、もし、機を窺うことができたならば。

 全てを失ったとしても、この男を仕留めることができたはずだ。あれだけ弱っており、なにより炎に焼かれ続けていたのだから。

 腰抜けという言葉は三太にとっても事実以外の何者でもない。


 けれど、その三太をして意外だったのは、この化け物を拘束できたことだ。

  

 三太自身知らなかったが、三太が斬った対象は残心の間拘束出来る、らしい。らしいというのは、不完全に一撃を放ったことで理解できたからだ。今までは一撃で状況を変えることが出来ていたのだ。

 だから、残心は崩せない。おそらくは、これを崩した瞬間に三太はあの異形の剣にズタズタに切り裂かれることになる。

 

【こいつ、おれの能力が効いてないのか…?】


『いや、効いている。ただ、我が凄いだけだ』

 

「そう。なら、これも効くでしょ?」

 

 炎。

 瀬菜は一切の容赦無く男を焼き尽くした。眩い光量に三太は瞼を閉じそうになったが、寸でのところで堪える。残心とはあくまでトドメを刺すための作法だ。それが瞼を閉じて、相手から意識を外すことなどできるはずもない。

 だから目にしてましまった。

 人間が焼き尽くされる様を、肌が焼け爛れていく様子を。


『はは、ははははははははっ!』

 

 哄笑。

 全身を焼き尽くされながらも男は嗤う。

 指一本動かすことができないこの状況で、どうして嗤うことができるのか。絶対的に有利なはずなのに全身から冷や汗が引いてくれない。少しでも気を抜けば、その瞬間に全てを失ってしまう恐怖感。それは、先ほど目にした光景があったからこそのものかもしれなかったが、紛れも無い事実であることを三太は痛感していた。


 それほどまでに、この男は凄まじい。

 

 一度状況を振り出しに戻した程度ではなんの意味もない。ましてや、不完全な振り出しだ。拘束出来ているとは言え、三太は次の一撃をなんとしても繰り出さなければと苦心する。が、できない。

 ()()()()()()

 三太がもう一度刀を振るうには何かが決定的に欠けている。これまでだってそうだった。三太の中の何かが条件を満たした時にしか三太は刀を震えなかった。

 それは、剣士としては欠陥としか言いようがない。

 三太が父親から勘当されたのは当然のことだった。

 必要な時に刀が振るえぬ者を剣士と言えるのか。この状況で考えても無意味なことのはずなのに、三太は自問せずにはいられなかった。


『焼かれるとはこういうことか。なるほど、奴らが悲鳴を上げる気持ちもわかる。ふふ、まさか、この俺が焼かれる気持ちを味わうことになるとは』


 しみじみと語る言葉に悲壮感がまるでない。

 全身が焼け爛れ、激痛に苛まれているはずなのにどうしてここまで平然としているのだろうか。今すぐにでも斬り捨てたい。そんな、これまで感じたこともない恐怖を三太は辛うじて自制する。


 それが、


『実に愉快だ。折角だ、おれの気持ちをお前らには味あわせてやろう』

 

 最悪の状況を招いてしまった。

 

 炎。

 

 赤い炎を塗りつぶすように、黒い炎が吹き出した。

読んでいただきありがとうございます!

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