勇者とは 六
まるで龍みたいだ。
爆発的な炎の奔流は螺旋を描きながら空を昇っている。上空で幾重にも炸裂する光よりもなお眩ゆい炎はあっという間に、その全てを飲み込んでいった。
派手さもなく、劇的でもない。
それでも効果は絶大そのものだった。
軍艦が、砲弾が、砲塔が──その全てが消えていく。
圧倒的な熱量に溶けていっているのだ。三太自身も炎に包まれていながら、その事実を受けていれている自分に三太はただ驚くしかなかった。やはりこの炎は何か変だ。変なのに、心地良すぎて拒絶できない。今抱いている疑問すらも溶けて消えてしまいそうだった。
「…いや、反則でしょ、こんなの」
「ふん。あたしにかかればこんなもんよ」
瀬菜が得意げに笑みを浮かべている。
その仕草はやはり三太が知る彼女そのものだ。
けれど、目の前で起きている現象は人間離れどころか、神がかっていると言っていい。まさしく自然災害。人間には決して抗うことも出来ない圧倒的な現象そのものでしかなかった。
【てめ、猫! ふざけんな、ボケっ!】
と、突然脳内に声が響いた。
勇者だ。
必死な叫びにも似た感情に意識を向ければ、なぜか懸命に炎を避け続けている。
「おおう、久しぶりだな。相変らずガラが悪いな、お前さん」
【言ってる場合か! その荒神を止めろ! 余計な真似すんな!】
荒神とは瀬菜のことだろうか。
三太は直感的に荒魂と似た響きだなと思ったが多分間違っていないのだろう。心なしか、炎の勢いが増している気がする。瀬菜もさっきまでの得意満面と言った表情からどこかムッとした表情に変わっている。そう言えば、こいつは軽い悪口でもすぐ怒っていたと三太は思った。
「まぁ、そういうなよ。こいつも神様の端くれでな、不逞の輩に対しては徹底的に祟らねえと気が済まねえのさ」
【なんでおれまで襲われてるかって聞いてんだよっ!】
勇者の訴えは正論だった。
一直線に空に伸びていた炎は幾重にも分かれ、夜空に浮かぶ軍艦を焼き尽くし始めた。それぞれがが個別の意識を持っているかのように自在に動き回りながら、時に合理的に、時に不合理に獲物を追い回している。軍艦や砲弾などの大物が姿を消し続ける只中で彼は逃げ惑っていた。
敵と同じように。
「偉そうに飛んでんじゃないわよ。目障り」
ぼそりと瀬名の呟きが聞こえた。思わず三太は瀬菜を見れば、まるで能面のような表情を浮かべていた。
相変らず容赦のない言葉と行動である。この状況でそんな真似をする瀬菜に戦慄すると同時にらしいとも思う。思えば、こいつは学生時代から知らない奴と嫌いな奴にはこんな感じだった。
つまり、
「お。落ちてくるぞ」
文七の言葉とほぼ同時に軽い震動が三太の背後で発生した。三太が視線を背後に向ければ、
【ざっけんな、ぼけっ! 死ね、クズ、デブ、ブス!】
そんな情けないブチギレ方をした少年がひっくり返ったまま、泣きそうな表情を浮かべていた。
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