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勇者とは


「…消えた?」


 三太は呟いた。

 ほんの瞬きの間での出来事だった。

 玉座に君臨していた男の映像が消えていたのだ。あれだけの砲撃の最中にあってもはっきりと見えていたのに、痕跡すら残さずに消えてしまった。三太は困惑しながらも周囲を見回した。瀬菜はさっきまでの爆音と震動がなかったかの様に平然としており、文七も同上だ。唯一心配だった市村ヨネも腰を下ろしていたが、特に大事はない様に見えた。


「大丈夫ですか?」


「…ええ。ママは平気」

 

 いや、ママじゃないでしょ。

 三太は思わず肩の力が抜けそうになった。そういえば、この人はそのことに関してだけは明確な意思を持って直そうしなかった。ここまでくるともうそれでいいと言う感情になってきてしまう。三太はとりあえず市村ヨネに近づいて支える様に立たせた。


「マザコン」


「いや、だから、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」


 瀬菜がなぜか睨んできた。

 市村ヨネは無言だったが満面の笑みで三太を見ている。

 それを指摘するのは悪手だと本能的に悟った三太は、無視して、文七の方へと視線を向けた。


「文七さん、何が起きたんですか? さっきの声は一体」


「前にも話さなかったか? この世界にもいんのさ。勇者ってやつがな」


「勇者、ですか」


「ああ。ま、見た方が早いな」


 そうとだけ言って文七は庭の方へ向かった。三太は後に続く。市村ヨネと瀬菜も三太の背後についてきている。

 庭先に出る直前、三太はまたとんでもない光景が広がっているんだろうなと呆れ半分で思っていた。

 空を見上げる。

 三太は半ば自身で予想した通り、また言葉を失ってしまった。


 空に無数の亀裂が走っている。それ自体は先ほどとは変わらない。違うのはそのいくつか(といっても数えるのがうんざりするほど)から砲塔や軍艦の船体がいくらか飛び出していること。全体が飛び出している状態の戦艦もいくつか見える。どうやって浮いているのか三太には当然理解できないが、それ以上に理解できないことがいくつかあった。

 

 一つは、おそらくは砲弾と思しきものが宙空にとどまっていること。小型の船かと思ったが、どうにも人間が乗っている様には思えない形だった。緩やかに回転している様は地上へ向かっていることを予期させたが、あまりに遅すぎる。三太の目からはほんの少しも進んでいない様にも見えた。他の軍艦も同様である。よくよく見れば、いくつかの砲塔から似た様な鉄の塊が飛び出そうとしているのも見える。

 そう、遅すぎるのだ。明らかにおかしい。

 

 そして、もう一つ理解できないことがある。


【なるほど。てめえら、脳筋バカだな?】


 空に、そいつはいた。

 翼を羽ばたかせるでもなく、飛行船に乗っているのでもなく、風船のように上昇しているのでもなく。

 当然の様に宙空に立っている。

 遠目で表情を伺えなかったが、それが亀裂や軍艦に向かって両腕を掲げているのだけはわかる。

 その上、


【俺様が当番の時に来たのが運の尽きだ。空に沈めてやるよクソ共が】


 どうにも口が汚い男らしい。

 勇者というのはどいつもこいつも野蛮人なんだな、と三太は認識を新たにした。

読んでいただきありがとうございます!

更新頻度が遅くなっていますが、最後まで書き上げるのでよろしくお願いします!

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