表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/151

宣戦布告 弍


 空が割れている。


 屋敷の庭先に飛び出した三太の目には、そうとしか表現できない光景が広がっていた。雲ひとつない快晴の空に無数の亀裂が走り、その数も増え続けている。

 あまりにも非現実的な光景。

 三太にとってもこれまでの人生で数えて二度目、あるいは三度目に数えられる異常な光景だった。

 ついこの間巻き込まれた非現実的な光景を三太は思い出す。けれど、あの時は自分自身が世界の異物のような感覚を覚えた。今回はそれとは真逆。明らかに目の前の光景は現実なのに現実として受け入れきれない感覚、とでも言えばいいのか。目の前の亀裂が明らかな異物過ぎて、これまで感じたことのない違和感を覚えているのかもしれない。


「…うわぁ。うじゃうじゃしてる」

 

 瀬菜が呟いた。

 三太には瀬名が何を言っているのか一瞬わからなかったが、すぐに理解した。増え続ける亀裂。それは明らかに独自の意思も持った何かが向こう側で蠢いていることの証左である。

 亀裂の向こうから何かが飛び出そうとしているのを想像し、嫌悪感を覚えた三太はすぐに屋敷の中に引き返した。


「文七さん! 空が!」


「わかってるよ、騒ぐな。…随分とセコイじゃねえか、王様よぉ? はじめっから狙ってたのかい?」


『獣風情が何を言う。むしろ感謝してほしいくらいだがな』


 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 再度、爆音が轟いた。と、同時に今度は猛烈な震動が襲ってくる。

 一度、二度、三度、四度。

 断続的に襲いくるそれらの衝撃に三太は床にしがみつく様に突っ伏すだけで精一杯だった。

 何が起きているのかは理解できる。けれど、それが現状に対してなんの救いにもならないことも三太は痛烈に理解させられた。

 

 おそらくは砲撃だ。

 

 あの亀裂の向こう側から飛び出した何かは、こちらの世界でいう軍艦かなにかの代物だったのだろう。まさか、いきなり軍事侵攻でくるなんて想像できるだろうか。確かに市村ヨネの語る人物像には合ってはいるだろうが、いくらなんでも性急過ぎだ。三太の世界にだって国家はあるし、軍だってある。こんな暴挙が許されるはずがない。

 

 ない、はずなのだけれど。


 止まることのない震動と轟音。いくらなんでも長すぎる状況に、三太は一抹の不安を覚えた。


 七大大陸の覇者であり、偉大なる始祖から数えて八代目となる大王。数多の戦場を駆け、無数の勇者を葬り去った偉大なる英雄。その全霊を祖国の繁栄に捧げ、史上最大の版図を得た男。


 市村ヨネが父親を語った言葉。あまりに大仰すぎると思っていたが、何も間違えていなかったのかもしれない。

 床にしがみついた三太が視線をあげれば、未だに男は玉座に座ったまま。三太たちをつまらなそうに見下ろしている。


 その威容。それだけで、三太たちの考えが甘かったことを理解した。


 はじめから交渉などできるはずもない。相手は異界の覇者だ。どのような手段であっても勝負なるはずがなかった。

 

 三太の頭の中にそんな弱音が走ったと同時に。

 

『実に呆気ない。この程度の――』



【てめえか、見つけたぞクソ野郎】



 そんな声が頭の中に響いた。

 

 直後、それまで続いた爆音とは全く別の甲高い音が響いた。まるで金属を擦ったような音。同時に、永遠に続くと思われた震動すらも消えた。


『――何者だ?』


 男が声に問う。

 またぞろ何かが起きたことを確信した三太は文七を見て、安堵した。

 文七が笑っているのだ。


【てめえこそ誰だ。オレの国でふざけたことをしてくれやがって】


 頭に響く声には明らかな怒りが込められていた。

 けれど、三太にはなぜか頼もしさすら感じられて。



【ぶっ殺す】


 

 そんな物騒な声と共に、再度爆音が響いた。

 

 



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ