私の国 弐
「私の国? あの、何の話をしているのかしら?」
文七の提案に市村ヨネは困惑するしかないようだった。
無理もない。三太ですら何を言っているのかわからなかったのだから。思わず、三太は瀬名を見た。もしかすると彼女なら何かを聞いているのかもしれないと期待して。
「すごい。先生、本気で言ってる」
「いや、まぁ、そりゃそうだろうけど」
期待した答えではなかったので、三太は落胆した。というか、三太だってこの場で冗談を言うとは思ってない。
とは言え、あまりにも脈絡がなさすぎてにわかには理解できなかった。三太を含めた全員が、文七の言葉を待つしかなかった。
文七は煙管を優雅に吸っている。
「とぼけんなよ。それがお前さんの親父さんや商組合の連中が固執する理由だろ?」
「………」
沈黙。
なぜか、市村ヨネは黙り込んでしまった。
その反応だけで文七の発言を肯定しているようなものである。そこまでは三太も理解できたが、だからといって文七の言葉に納得いくはずもない。
どうにも、三太の知らない何かが込められているようである。
「猫さん、どこで気づいたのかしら?」
「さてね。まぁ、おかしいとは思っちゃいたんだ。商工会の連中が俺を嗾けるのはいつものことだが、今回はどうにも性急すぎた。しかも、百年前からあるってのに、なんで今まで何の話も上がってこなかったのか」
「なにを、言いたいの?」
「隠してたんだろ? ここがとっくに異界だったってことをさ」
✳︎
『ふざけるなよ、貴様。そこは俺の領土だぞ』
地獄の底から響くような声だった。
殺意すら超えた感情が込められたそれは、市村ヨネの発言がこの男にとって本当に許し難い領域に踏み込んだことの証明である。
市村ヨネはそれすらも毅然とした態度で受け止めている。
「いいえ、ここに貴方はいなかった。百年も経てば国の一つも興りましょう」
『どの口で言う、貴様…っ!』
まさしく盗人猛々しい。
三太ですら男の言葉に同意したくなった。が、そんな個人的な感情は現状ではどうでもいいのだ。
国。
市村ヨネは私の国と言った。当然でまかせでしかない。そもそも、彼女は国なんてものに興味もないし、そんな主張をしたこともなかった。
けれど、相手は異世界の超大国の王。それと戦うのに個人ではまるで土俵が違い過ぎる。
だから、
「そこまでだ。ここからは俺が仕切らせてもらおう」
全ては文七の入れ知恵である。
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