クソ親父
まるで、自分と父親の対話を見ているようだと三太は思った。
高圧的な態度に萎縮する様子も、当事者でもないのに居た堪れなくなるよう雰囲気も。全てが三太にとって身に覚えのある光景だったからだ。三太の父も同じだった。一人の人間を見る時とは違う、明らかに異質すぎる視線。それを我が子に向ける父がひたすらに怖かった。
数日前の決別の時でさえ恨み言一つぶつけなかったのは、この視線を向けられることがなくなると安堵した思いもあったから。
そのことを、三太は明確に自覚している。
『──つまらんな』
どこまでも高慢な言葉に三太までイラついてきた。そもそも対話というものをこの男は理解していないのではないだろうか。そういえば、三太の父も同じだった。まるで自分の考えが絶対であるかのように言葉をぶつけてくる。それに反論しようにもあの目が邪魔で反抗できないのだ。
そこで、三太はふと気づいた。
あの目。
三太の父が三太に向けた視線に対するものと同じであったとするならば、それは、
「なんですって…っ!」
『お前はつまらん。お前がどうなろうともはやどうでもいい』
『あの小僧を差し出せ。王位継承権の保有者だ。見込みがあれば、おれの次にしてやる。どうだ、破格の条件ではないか?』
いやいや、どうなってるんだこの人の頭の中は。
三太は今度こそ呆れ果てた。
「信じらんない。こいつ、本気で言ってる」
呟くように瀬菜が言った。
そうだろうなぁと三太は納得した。三太の父は冗談の一つも言わない男だった。目の前の男もおそらくそうだろう。子供相手に嘘で偽る必要がないのだ。所詮、自分の子供なのだから。
そう、この男は自分の子供相手にただ道理を説いているだけなんだ。
その事実を三太は深く理解する。
「…もし、見込みがなければ?」
消え入るような声で、市村ヨネは問いかけた。
もはや、見る影もない。声どころか姿までも消えてしまいそうな雰囲気に、もう限界に近いんじゃないですかと文七へ視線を向ける。
文七は三太の視線にまるで気づかないように市村ヨネを見ていた。
『お前は本当にどうしようもないほどつまらんな。他の者にやらせるだけだ。ああ、当然その時は小僧は殺す。わかっているはずだぞ。おれがそうすることはな』
言葉通りに心底つまらなそうに、男は言う。
それはそうだ。
三太ですら答えを予想できる質問だった。時間稼ぎですらもない無駄な質問。それも市村ヨネが限界に達したからこそとも言えるだろう。
少なくとも、三太はそう思っていた。
彼女の言葉を聞くまでは。
「…っざけんな」
『なんだ?』
「ふざけんなっつったんだよっ! このクソ親父ぃっ!」
響く怒号。
突然の市村ヨネの豹変に三太は凝視した。
これまで見たこともないような表情で男を睨む市村ヨネ。愉快そうに笑みを浮かべる文七と呆れ顔をしている瀬菜。
どうやらまだ勝負は終わっていないことを、三太は理解した。
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