手紙 四
「息災なようだな」
「父上こそ変わらず壮健なようで」
「ふん、何が父上か。今更取りつく間柄でもあるまい。畏まるな、不愉快だ」
「…では、そのように」
何とも味気のない会話だ。彼は久しぶりの娘との対話に既に飽き始めていた。
一言でも言葉を交わせば察することはある。
当初見せた覇気は鳴りを潜め、ただ丁寧さだけを強調された受け答え。てっきり、姿を見せた直後に魔法陣が爆発するかと期待したがその様子も可能性もない。彼自身、己が目で解析したので間違いないはずだ。再現はできなくとも、その用途までを特定することは容易い。
だからこそ不可解だった。
こいつは何をしに来たのか。
それがまるでわからなかった。
「おれも暇ではない。数十年ぶりに顔を合わせたのだ。なにか言いたいことの一つでもあるのだろう?」
「…ないんですか?」
「なに?」
「あなたは、私に聞きたいことはないんですか…っ?」
まさかの質問に質問を返された。彼は一瞬呆けたが、すぐに娘の言いたいことを察した。察して、これまで以上に不愉快な気分になった。無論、表に出すことはなかったが。
「ないな。わかっているだろう、ある程度のことは見ていたからな」
「そう、ですか。それなのに、何も言ってくださらないんですね」
今度こそ、彼は自身の心情を押し殺すのをやめた。実に鬱陶しい。そんなどうでもいいことをわざわざこの場で言葉にした時点で、常の彼なら使用人ごと手紙を燃やし尽くしていただろう。
「おれに言葉を求めるか」
「…もういいです」
「そうか」
言葉が途切れた。
意味がわからない。
この問答をすることも、娘が何を感じったのかも。
市村ヨネという名に変わって少しはましになったものと思っていたが、これではさらに酷くなっている。なにも要求せずにただ己が望むように周囲を動かそうとすることがどれだけ醜く、浅ましいか。まるで女児そのものである。彼が唾棄すべきとする価値観そのものの振る舞いに、心が冷えていくことを自覚した。
当然、彼の配下たちも同じ反応である。
「つまらんな」
「なんですって…っ!」
「お前はつまらん。お前がどうなろうともはやどうでもいい」
心の底からの本音として、彼は告げた。
周囲の反応も薄い。ここまで失望させたのだから当然のことだろう。あとはやるべきことを粛々と進めていくだけだ。
「あの小僧を差し出せ。王位継承権は保有者だ。見込みがあれば、おれに次にしてやる。どうだ、破格の条件ではないか?」
「…もし、見込みがなければ?」
「お前は本当にどうしようもないほどつまらんな。他の者にやらせるだけだ。ああ、当然その時は小僧は殺す。わかっているはずだぞ。おれがそうすることはな」
刃のような鋭い視線。
けれども、その迫力も彼にはどこか虚しいものでしかなかった。
ああ、本当につまらない。
彼は全てがどうでもよくなって、彼女のいる世界をまるごと火の海に沈めようかと考えてしまった。やろうと思えばできるのだろうが、目の前の娘を見ていてやる気すらも消えた。
失望という感情の味を、彼は初めて噛み締めている事実に気づくのだった。
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